「そのまま前を見て」 01
朝食後、更衣室で屋外作業用の服に着替え、中庭に集合。今日は施設脇の少し高くなった場所を崩しつつ、土砂を施設反対側の溝に埋める、という作業らしい。
セクション長から、割り振りの指示が出た。
「まず東側一番、私とアサダさんが一輪車で、スコップがミツハシさん、ヨシダさん、カネコさん、テラシマさん、次に東二番……」
次々と配置がきまっていく。
セクションCは全員で一八人、年齢も体力もまちまちなので、だいたい負担の少ないスコップが年配者、動き回る距離が多い一輪車を若輩ものが行う場合が多い。
アオキは東側三番の一輪車隊だった。ジョウガシマは同じ場所のスコップ担当だった。と、そこにジョウガシマが
「センター長、よろしいでしょうか」
と手を挙げた。
「東三番のミズノさん、一輪車ですが確か一昨日、足をくじかれたとか」
はあ、とミズノがはっきりしない返事。
「一輪車で行き来は大変なので、私が替わりましょうか?」
え、でもたくさん歩くのは大変では? と他の人に心配されたが
「いえ、私歩くのは好きなんですよ」と澄ました顔。
「いいですか? 替えていただいても」
わたしは別に……とミズノがセクション長の顔を伺う。
五十歳くらいの学校の先生みたいなセクション長は、名簿をじっと見ていたが、
「分かりました」とあっさり変更を許可した。
「それでは」
みんなの方を改めてざっと眺め渡す。
「教主様と私たちの魂のため、今日もお仕事をがんばりましょう」
「おお!」
掛け声も勇ましく、彼らは現場に歩き出す。「いち、に、いち、に」当番らしい金子が号令をかけて二列で歩く。
スコップで切り崩す崖は、高さが二メートル弱、黒っぽい柔らかそうな土がほとんどだった。雨でも降ったら、泥になりそうな代物だ。
同じチームのスコップ隊四人は二手に分かれ、二人が主に切り崩し、もう二人が一輪車に積み込みを行う。ある程度溜まると、一輪車は動き出す。
最初のうちは、どの辺まで積んでもらえばいいのかよく分からず、しょっちゅう「まだまだ」とか「もう持てませんよ」などと声をかけてもらっていたが、そのうちに運べる量が定まってきた。
足元が少し柔らかいので最初に動き出すところが大変だったが、そのうちに慣れてきて、方向を変えて向こう側の捨て場まで移動するのもスムースになってきた。
移動距離は建物の端から端なので、300メートルかそこら。途中は地面も固く、それほど苦ではない。
ただびっくりしたのが、かなり広い敷地の中にも、二人組の見張りが所どころに見られるということだった。
しかも、敷地境の塀には、まるで映画の刑務所に出てくるような展望台までついていた。中に人がいるのかまでは伺えなかったが、どうにも不気味な感じだった。




