「派手にやられたようですね」 02
以前にも、シェイクをかけ損なった時にも頭痛だけは起きたという例もあったのだが、毛筋ほどの痛みも起きないとなると、本当に自分がその『力』を遣おうとしていたのかどうかさえ、怪しくなる。
原因がさっぱり分からないのも、不気味さに拍車をかけていた。
その上、そんな状況に対してだんだんと無力感に囚われつつあった。
元々、シェイクなんて力は自分にあったのだろうか?
小市民な自分が実は宗教に目覚めつつあって、本来の身の丈に戻ってきているのだろうか?
夕食も、無事に済んだ。
乾杯が済んでご飯をかっこんでいる時、どうにか今夜は起こされずに済むかも、と安堵の吐息が出る。とにかく、無事に一日終わることが嬉しかった。
部屋に帰り(アサダは既に寝ていた)、少しは教義のテキストにも目を通してやろうか、と本を出してきたが、気がついたらそのまま眠っていたようだ。
今度は無事に次の朝がきていた。
「あ、おはようございまあす」
アサダが、また体操をしていた。
今聞いてみようか? テストの時の事。しかしアサダは
「この外に植わっているのは白樺だそうですよ」
とか
「私、ほうれん草は好きなんですが味噌汁に入るとダメなんですよう」
とか、のべつまくなしに何かしゃべっているか、手洗いに行ったり歯磨きに出たり、歯ブラシを忘れた、とまた取りに行ったり、ゆっくり話すヒマもない。
そのうちに、今日の日課の始まりはじまり。
アオキは無意識のうちに祈る。どうぞ今日も平穏無事でありますように。




