「派手にやられたようですね」 01
不服従の『特別指導』は、それほど珍しいものでもないようだった。
朝食時、食堂で同じセクションの初老の男にさりげなく声をかけられた。
「派手にやられたようですね、ゆうべ」
はっとして彼の顔をみる。
確かジョウガシマ、とかいう名前だった。昨日の朝食時にスピーチを指名された男だった。
もっと突っ込んで聞こうと口を開きかけた時、目で制された。
「明日にはもう少し、チャンスがありますよ、お話の」
その後は、全く昨日の朝食と変わることがなかった。
この日も特に、目新しいことはなかった。背中がズキズキするのも、昼頃にはだいぶ良くなってきた。
気がついたことがいくつか。
同じセクションのトリサカが、左小指に包帯を巻いていた。いつもおどおどした感じだが、アオキがその包帯に目をとめると、明らかに動揺したように後ろに隠してしまった。
そしてもう一つ。
夕食時、セクションDとの入れ替えの際、偶然耳に入った会話に彼は耳をそばだてた。
「……もう入ったんですか? ワタナベ」
「白紙で出して、しかも紙飛行機で飛ばしたって」
「やばいっすね」早口だったが、多分こんな会話だった。
昨日のテストの事らしかった。
アサダは見ていたのだろうか? 聞いてみたいが、これも明日まで待つしかなさそうだ。
それより『シェイク』を使えなかったこと……一人になると、つい頭を抱えてしまいそうになる。
スキャンも使えたり使えなかったりする、というのがおかしくもあったが、一番得意だと思っていたシェイクがここぞという所で使えなかったのは大きな衝撃だった。
知力も体力も人並み外れたものなど期待できないな自分には、こんな危険な場所で唯一の武器が使えないのは致命的だ。
頭痛さえ襲ってこない。




