「教義に関わる問題です」 02
「何でだよ」騒ぎを聞きつけて、近くに立っていた二人組が走ってきた。
「どうしましたか」
「あの……お茶こぼしちゃって……」消え入らんばかりのトリサカの声、泣きそうだ。
「オレ、いや私が半分やる、って言ったんですがね」
アオキの明るい口調に、二人組は顔を見合わせた。
一人が、アオキに目を戻した。
「半分やる、って、お茶をですか」
「悪かったかな」
「いけませんね」急に声がして、一同はぎょっとなった。
いつの間にか、スギヤマが立っていた。目は笑っていない。
「それは、神聖なるお茶ですからね。他人に分けたり、他人の物を頂いたりすることはできないのです」
「何でかな」アオキはとぼけてみた。
「教主様は、おっしゃったよねえ? 他人と喜び、苦しみ、痛みを分け合うことの大切さ。お茶だって分けりゃあ、いいんじゃないの? 別にまたもらったっていいんだろ?」
「アナタ……記憶力は優れているようだが」
にっこりしてみせるスギヤマ。が、
「これは、教義に関わる問題です」
次のその言葉に、周りはみな凍りついた。
アサダと、あともう一人最近来たらしい若い男はぽかんとしている。
「……事務局長様、申し訳ありませんでした」
セクション長が深ぶかと頭を下げた。
「トリサカさんの分を、また頂けますでしょうか?」
スギヤマは鷹揚な笑顔を浮かべて後ろに控えた男に合図した。
男は、ブルブルと震えるトリサカの手から湯飲みを受け取ると、どこかに姿を消し、間もなく新しいお茶を入れて運んできた。
「あ、ありがとうございます」トリサカが何度も頭を下げた。
「それでは、乾杯を」
これ以上もめ事になりたくないらしく、早口でセクション長がカップを上げた。みな、さっさとそれに従った。
今夜の食事は、昨夜よりメニューがちゃんと揃っていた。なのに、アオキはあまり味を感じなかった。




