「飲み干すんですよ。これは」 01
<八月二八日(金)たて続けに事件。順を追ってまず火曜・オリエンテーションとテストあり。夕食でトラブル、夜中に初の洗礼を受ける。水・Wの噂? まずいことになったと。Jに声をかけられる。木・初屋外作業、少し話できたが夜中にまた洗礼、織田、小田? に注意すること。今日は無事だった、これから日記が続けられるか心配になる。
力が使えない?>
翌朝、オーケストラの音楽で目が覚めた。
どこから鳴っているのか、すぐに気がついた。天井と壁の間、ずっと細長く開いている、そのどこかがスピーカーになっているようだ。
交響曲か? 聴いたことがあるようなないような。ボビーならすぐ教えてくれそうだ。
「おはようございます」
急に元気な声がして、彼の前に誰かが立った。アサダだ。
「あ、おはよう、」また付け足して「ございます」
「いい天気ですねえ、今日は」
手足を伸ばして、軽く運動しながらアサダがにっこりと笑った。
「同室の方ですね、気がつかなかったなあ。昨夜いらしたんですか?」
固まったままのアオキに向かって、ぺこりと頭を下げる。
「私、ア、サ、ダ、といいます。よろしくお願いします」
「……アオキです」
昨夜の出会いは、まるで覚えていないようだった。
朝食は、アサダに案内されて、昨夜使った食堂に向かった。
他にも、近くの部屋からぞろぞろと数人が出て来た。
みな顔を合わせると「おはようございます」と明るく挨拶する。
アオキも一応、状況に合わせてみた。
食堂には、あまり人は多くなかった。
昨夜はなかったが、今朝は食堂内にも小さな音量で、軽い音楽が流れていた。
五十人ほどは収容できそうな場所だが、埋まっている席は半分以下、しかも固まって食事をしている。聞くと、セクションによって微妙に食事時間にズレがあるそうだ。
彼らのセクションはC、今食事をしているのがBの人たちらしい。
アオキたちが中に入ると、すでにセクションBの連中はほとんど食事を終えていた。
ざっと見渡してみたが、その中にジャカードらしい人物は見当たらなかった。
男性ばかりだが、どれもさすが宗教施設、何となく穏やかなムードに包まれている。
しかし、私語はほとんど聞かれず、食べるのも速い。プラスティックの皿と箸がぶつかる軽い音が響いていた。
最初から簡単に見つかれば苦労はない。
彼はあきらめて席につこうとした。
部屋順に席も決まっているらしい。すでに茶色い飲み物の入ったカップが、それぞれの席に置いてあった。カップには分かりやすく名前のラベルがついていた。
アサダが、座ろうとした彼をつついた。
「ここ、セルフなんです。行きましょう」
見ると、みな一列にカウンターに並んでいる。彼もその後ろについた。
念のために、厨房の中ものぞいてみる。
まさかコックに転身したということもなかろうな、と思いながらも結構丁寧に一通り見た。
ここも男性ばかりだったが、やはり目当ての男は見えなかった。
皿を洗っている男に、ふと目がいった。




