「アサダさんは……いつからここに?」 01
ようやく寝泊まりする個室に案内された。
ドアを開けると、やはり白っぽい光景が拡がっている。
部屋は縦にやや細く、簡素なホテルの一室のようだ。ドアのすぐ右に靴箱があり、奥には左右の壁にベッドが寄せてあった。枕が奥側でドアの方に足が向いている。真中は共通のスペースらしく、奥の窓まで白い床が伸びていた。
窓は掃き出しの大きなもので、カーテンはない。夕暮れの空の色が曇りガラスを通して部屋を満たしている。
窓の前、やや左のベッドよりに、外を眺めるような立ち位置で先客が佇んでいた。
「おっと」
アオキはつい立ち止まるが、彼を連れて来た二人組はさりげなく彼を中に押し込んだ。
「こちらは、アサダさん、同室の方です」
アサダ、と紹介された男は、ぼんやりと彼らをみた。
彼らを通り越し、ドアを見ているようだった。
「あ、アオキです」彼はぺこりと頭を下げた。
少し間があって「あ」のっぺりしたような人のよさそうな顔が、考え深そうに首をかすかにかしげて声を発した。
「あ、あああああ」吃音があるのか。「アサダです」
そしてそのまま、また窓の方を向いた。外は見えないのに、何を見ているのか判らない。
アオキを連れて来た二人のうち一人が、ベッドの説明とその下についた収納、サイドテーブルについて簡単に説明したあと、食事になったらお呼びします、と帰っていった。
時間の感覚がなくなっていた。
この部屋には時計がない。
さっき風呂に入った時着替えたので、時計も外してしまったが、新しい着替えと一緒には置いてなかった。なので、時計は不要、ということなのだろう。
部屋にはトイレも風呂もない。
もちろんテレビも。先ほど彼らの一人がドアを開けた時に気づいたが、鍵すらついていない。信者にはプライバシーがないのだろうか。
「あーあ」
右側のベッドに、体を投げ出す。気が緩んだせいか、急にだるくなった。




