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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
95/200

ワーニング -2-


「ユーリ」

「はーあい」

「手始めに、あの時のことを詳しく聞かせてくれないかな。思い出せる範囲でかまわないんだけど」

「あの時っていうと、あれでいいのかしら」

 ショウとユーリのやりとりを聞きながらアヤノも『あの時』を思い出し、軽く身震いした。第3ステージのボス戦の後だ。ユーリはモザイクの敵に貫かれて一度消え、戻ってくると記憶をなくしていた。

 その間に何があったのか。それを思い出してくれれば、いろいろとわかることもありそうだ。

 しかし当の本人はあっけらかんと首をかしげる。

「そうはいってもねぇ」

「やっぱり覚えてない? ちょっとしたイメージだけでも残ってないかな」

「んー、刺されたっていうけど、それもよくわからなかったのよねぇ」

「じゃあもうひとつ言ってたことは? 確か、“声”が聞こえたって?」

「そうはっきり聞いたわけじゃないわ。あなた達の誰かだったかもしれないし」

「……んだよ、結局なんにもわかんねぇじゃねーか」

 そっぽを向いてぼそりと漏らしたのはアルだ。ショウがたしなめるような視線を向ける横で、ユーリがおおげさにため息をついた。

「わからないものはわからないんだから、しょうがないでしょぉ? それに、アルちゃんはどうなのよ? “幻想症候群”、発症した時のこと覚えてるわけ?」

 そういえば、とアヤノはアルを見た。アルの時はたしか、約束より早い時間にやってきたと思ったら様子がおかしかったのだ。

 アルは落ち着きなく目線を落とした。

「そりゃ……覚えてねーけど……つか、ログインしたのもよくわかんねーし……」

「でしょぉ?」

「アヤノはどうなのだ。俺が合流したときには、既にその状態だったのだろう」

「あ、……うん」

 思わぬ飛び火に反応が遅れた。それから試しに思い出そうと努力してみるが、頭の中に霧がかかったようでうまくいかない。

「……ダメみたい」

「そっか」

「しかし、諸々がこうまで曖昧となるとな」

 ダンテの眉間にしわが寄る。と、不意にユーリがくすりと笑った。

「で? 最後のひとりはどうなのかしら?」

 一気に視線が集中した。

 見られたショウはといえばこの展開を予想していたようだ。肩をすくめつつ、困ったような、しかし前もって用意しておいたような笑みを浮かべる。

「残念ながら、だね」

「ショウは、あーと、第5ステージあたりからだったっけか」

「うん。実は僕も、あの時ログインしてきた記憶が――あ」

「ん?」

「そうか。4人の状況をつき合わせると」

 ショウの笑みが消えた。

「狭間が危ない」

「え?」

「ログイン、生命力ゼロでの送還。たぶんだけど全員その隙間で発症してる。それとアヤノのステージ移動でのことも……」

 言葉を切り、ダンテを見る。ダンテも居住まいを正すようにして見返した。

「俺にもログイン時の危険があると、そう言いたいのか」

「話が早くて助かるよ。今はまだ大丈夫でも、今後少しでも妙なことがあったら……こっちに来るのは控えた方がいいと思う」

「それはできない」

 双方から不穏な気配が漂いだした。リーダー格のこの2人で言い争いが始まると、アヤノにもアルにも止めることができない。ユーリは至っては止めようという気配さえない。

「万一君まで発症したら困るんだ。僕達とあっちとの、ほとんど唯一のパイプなんだから」

「とはいえ異変を事前に察知できる保証はあるまい。避けられないのであれば気に病むだけ時間の無駄だ」

「ダンテ」

「お前のことだ。新たなパイプはもう繋げてあるのだろう。ならば今までと何ら変わるところはない」

 一瞬の沈黙があって。

 ショウは、緊張を解くように長く息を吐いた。

「僕らを気遣ってくれるのはもちろんありがたいけど、自分の方をおろそかにしすぎじゃないかな」

「そんなことはない。気にするな」

 ダンテの表情がわずかながら和んだ。アヤノも胸をなで下ろす。どうやらショウが折れて終わりそうで、よかった。いやダンテの主張がいいとばかりは言えないが。

「この話は終わりだ。次のステージへはいつ向かう」

「真面目そうなくせに、意外にそういうとこ狡いなあ」

 ショウが笑い声を漏らした。ところへ、ユーリが茶々を入れる。

「茶番はおしまーい?」

「おしまい。だから話を元に戻そうか」

「あら、あれで終わりじゃなかったの?」

「もともともうひとつ確認しておきたいことがあったんだ。――アル?」

「へ」

 面食らった顔でアルが自分を指さした。

「オレ?」

「アルはさ、何について『思い出せない』?」

「何って」

「家族のこと? 学校のこと? それとも、別の何か?」

 若干おどけた調子だが、まじめな問いなのだとわかる。アルは顔を仰向けて、眉根を寄せながら口を開いた。

「……あー……そういやあったな。あれだ」

「! どれ?」

「オレさ、どうしても――」

 赤い眼がショウを見る。

 困ってはいないんだが、という表情で。先ほどのユーリと同じように。


「『自分の顔』が思い出せないんだよ」




            * * * * *




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