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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第6ステージ:船舶
90/200

オラクル Ver. ヘルメス -3-


 扉に触れ、飛び込んだ先もまた船内だった。空の代わりに壁や天井が薄青く輝いていて、若干戦意を削がれるような気もする。何しろ沈静色だ。

 そう思っていたところへアルが急に声を上げた。

「80って……おいここ、いきなり敵数増えねーか!?」

「大丈夫、何割かはキノコだよ。そこまで大変じゃないと思う。事前にちゃんと始末できればね」

 ショウが笑いながら手を振った。だから、とその後に付け加える。

「見張りをひとり立てたいところかな。キノコを専属で狩ってく役」

「あーなるほど」

「ならば、適任は俺だ」

 名乗り出たのはダンテだった。間を置かず、少し向こうに陽炎がふわりと揺れる。5人全員が一斉に身構える中で、ショウがうなずいた。

「そうだね。見つけた端からどんどん潰して。あれは動かないから、魔力消費の少ない“アンベロス”で充分だと思う」

「了解した」

「――あ」

 運悪く、陽炎は2体のGに変化した。本音ではアヤノもGよりキノコの相手に回りたいところだ。が、ぐっとこらえて切っ先を上げる。

 いい加減少しは見慣れてきたはず。触れなければ、斬るだけならいける、たぶん。

「それと、ユーリ!」

 素早くナイフを投げたショウが声を張り上げる。

「できたらダンテのサポートを」

「不要だ!」

 ところがダンテ本人が途中で遮り、アヤノ達から距離を置いて宝剣を掲げた。


魔法マギア:アンベロス』


 アルの背後で蔓が伸び、顔を出したキノコの傘を包んだ。アヤノ達ももう動かざるをえない。カサカサと蠢く黒光りをフットワークでかわしながら、続く一言を聞いた。


「信用、できない」


「わかった――その話はあとで!」

 ショウの固い声とユーリの軽い笑い。アヤノはふるりと頭を振った。今はとにかく、戦いに集中しなければ。

 軽く床を蹴って真上に跳ぶ。突進してきた黒光りが足下を通り抜ける瞬間に、曲刀を真下へ突き下ろす。頭と胴の境目に深々と刺さった、そこを支点に体重移動で刃を横へ引く。

 それでも倒すにはあと一押し足りない。

 黒い光沢に触れないよう飛び離れると、そこへアルが駆け込んできた。銃でとどめを刺しにかかる、その間にまた陽炎。またGだ。なんでそればっかりと内心で悪態をつきつつ、アヤノは勢いをつけて壁を走った。迷宮ステージへ戻ったときに覚えた小技だ。

 駆けてすれ違いながら、斬る。とんっと手で壁を押し、反動でわざと落ちながら刺しに行く。

「伏せろ!!」

 刺して敵が消えたところへとっさに身を沈める。

 頭上で風が渦巻いた。目をやった先で3か所同時に生えかけていたキノコが吹き散らされた。

「……っと。アヤ、もう大丈夫だよ」

「ひと段落だな」

 他のメンバーが起きあがったアヤノの方へやってくる。途中ショウが指で合図をすると、アルが下ろしかけていた銃をまた上げて、赤い眼を周囲に走らせた。

「とりあえずいけそうかな? どう?」

 ショウの問いかけに無言でうなずく。が、ショウの視線はそのまま脇へ逸れた。

「でも……さっきはああ言ったけど、やっぱり安全が第一だからね。もし無理そうだったら“紋章クレスト”にはこだわらない。敵が残ってても、ボスだけ倒して帰るよ。挑戦ならまたできる。……いいよね?」

「う……」

「……わかった」

「ふ、ふ」

 アヤノとダンテが引きつって、ユーリがそれを見て含み笑う――

 その次に来た沈黙に、アヤノはちょっと首をすくめた。途中までは決して珍しくない光景だったはずだ。けれどやっぱり前と違う。目元が険しくなるダンテと、あからさまに顔をしかめるアルと、なぜか無言で笑っているユーリ。3人の間の空気がとてもとてもよろしくない。

 もちろんショウもそれを感じているのだろう。何か言いたそうなそぶりを見せて、けれどすぐに首を振った。

「行こう。できればここを抜けきるまで、余計なことは忘れてくれると嬉しいな」

「余計なこととは思わないが」

「ダンテ」

「わかっている。優先順位はつける」

 息を吐きながらダンテが先に立って歩き出す。アヤノ達もすぐに続くが、ユーリは横目でそれを追い、最後にやっとついてきた。

 大丈夫、なのだろうか。

 こんなにも不安な攻略は初めてかもしれない。それでもここまで来てしまったからには、進む以外の道はない。

「……ユーリ」

 迷ったあげくふり返って小さく呼んでみた。するとユーリは意表をつかれたように灰色の目を見開いた。しかしその先何を言うか、実は決めていなくて。

「何よ?」

「……。勝ちたい、から」

「は?」

「協力……お願い」

 なんとも舌足らずなことになってしまった。アヤノはちょっとばかりヘコんで床に目を落とした。

 と――

「別に……協力しないとは言ってないわよ」

 ユーリが足を速め隣りに並んできた。目は合わせないながら、さっきまでより刺々しさが和らいだ気がした。なぜなのかはさっぱりだ。が、そこへすぐに敵が現れたため、尋ねたり詮索をする余裕はなくなってしまった。




            * * * * *




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