プロフィール -3-
5人は舳先の近くに落ち着いた。座る場所は用意されていないため立ち話になるが、座らなくても別に疲れはしない。なにしろ生身ではないのだ。
「それじゃあ一応、改めて。……翔一です。ゲーム初期からやってるんで、“テオス”歴はそれなりに長いかな」
名乗った一瞬に照れが見えたような気がした。それでも自分で「責任」と口にした通り、途中で渋るようなことはしない。
「叔父が運営会社にいる関係で、知っての通り監視員みたいなことをやってる。ちょっとだけデザインに関わらせてもらった部分もあるよ」
「社会人なのか」
「一応ね」
「このお仕事を始める前は? 情報科かなにかだったのかしら?」
「ううん。プログラミングだとかそっちの方は、実はそんなに詳しくない」
「……黒」
ふとアヤノも聞いてみたくなり、口を開いた。
「黒、好きなの?」
服装はまっ黒だし髪も黒い。――瞳は青いけれど。
するとショウは、不思議な微笑を浮かべた。
「うん。青もだけど」
「オレは赤だな! 断っ然、赤!」
「あんたのことは聞いてないわよ」
いきなりアルが割り込んで、ユーリがわざとらしく口元を隠した。それを見たショウが目を細める。
「ユーリは? 白?」
「それって好きな色の話?」
「そう」
「あなたの話をしてるんじゃなかった?」
「いや、言いたくないなら別にいいけど。……アヤは、黄色だったよね?」
だいぶ前に話したことを覚えていてくれたらしい。アヤノはこくこくとうなずいて、ショウを、続いてダンテを見た。
「アバターには、好きな色を反映させてることが多い。だよね」
「うん。前にそう言ったね」
「そりゃそうだよな!」
「ダンテ、目も黒いけど」
「俺は……好みというよりも、身に着けて落ち着く色を選んだ。それだけだ」
「ねぇねぇ! いいからもっとショウくんの話を聞かせてちょうだいよぉ、他にはなにかないの? たとえば“テオス”制作の裏話だとか……裏技とか?」
「そういうのは僕個人のことじゃないし。ラストステージまでクリアした後でね」
かわいこぶってのおねだりをあっさりかわす。かわされたユーリは悪びれず、かといっておもしろくもなさそうに肩をすくめた。
それからは主に好き嫌いの話が続いた。甘いものはわりに好きだとか、アルコールは苦手だとか。そんなことをとりとめなく話す合間に、兄弟はいないことや両親が海外にいることなどもわかった。
「だから叔父のところでお世話になってるんだ」
「ひとり暮らししてるわけじゃないのねぇ。ショウくんもしかして、意外と若かったりしない?」
「それは、若いっていうのがどこまでを指すかによるかな?」
「あらズルい言い方」
「今回はこんなところにしておくよ。……やっぱりちょっと変な感じがするね。この姿で“あっち”の自分を語るのって」
ショウが照れたように頬を掻く。アルがうんうんとうなずき、頭のうしろで手を組んだ。
「言ってみりゃ、こっちのキャラは理想型だしなー。それでリアルの……なんつーか、欠陥型? について考えんのは恥ずいかもな」
「理想に対する“不完全な現実”、か――」
自然と皆が黙り込んだ。アヤノも黙って思いを馳せる。
アバターは、今とっているこのカタチは、現実の自分が創ったもの。自分の好きな要素をいっぱいに詰め込んでいるはずだ。そんな“カタチ”をよく観察してみれば、いまだ思い出すことのできないリアルの自分を少しでも理解できるのかもしれない。
そうかもしれない、と思いつつ。
――やっぱり……知りたく、ない……?
そう考える自分が、アヤノの中に確かに存在した。
だからこそ逆に気づくことができた。リアルの綺乃はきっと――自分のことが、好きではないのだ。
「アヤ。どうしたの?」
「……あの、」
聞いてみたいような、聞きたくないような。そんな疑問がのどの奥に引っかかった。
ショウはどうなのだろう。他の皆は。
本当の自分は、好きですか――?
「ごめん。やっぱりなんでもない」
「? そう?」
「ショウ……そろそろフィールドへ行った方がいいのではないか」
不意に切り出したのはダンテだった。ちょっと目を見開いたショウから顔を背けつつ、悲壮感漂う表情で続ける。
「回避する道はないのだろう。ならば、どうあっても進まねば」
「うん……ありがとう。だけどあんまり無理はしなくていいからね。どうしてもダメだったら言ってくれていいからね?」
苦笑しながらショウが念押しした。それを聞きながらアヤノも首をすくめる。
フィールドにいる“アレ”と対峙する覚悟を決めなければならないのは、アヤノもいっしょだった。
第6章1節 了




