プロフィール -2-
「ところで、みんな……第6ステージで出現する敵については知ってる? 調べたことある?」
ふと思い出したようにショウが言った。ダンテと合流し、第5ステージの“扉”の前に立ったときのことだった。
アヤノはアルと目を見交わした。当然ながらアヤノは知らない。アルが不思議そうに首を振ると、少し向こうでユーリも肩をすくめた。
「だってぇ、こんなに早くここまで来られるなんて思わなかったんだもの。まだ全然調べてなかったのよねぇ」
と、ダンテが目をそらすように横を向いた。それを見上げて、ショウが何かに同情するような苦笑を浮かべる。
「うん。気持ちはわかると思う……」
「どういうことだよ?」
「あー……あのね。今のうちに言っておく」
「??」
「第6ステージ、難関だよ、ある意味で」
“ある意味”の意味がわからず内心で首をひねっていると、ダンテが妙に重々しくため息をついた。説明を求めてじっと見つめてみるが反応してくれない。ダンテのことだから気づいていないわけではないだろうに。
「行けばわかるよ。すぐわかるから」
ショウがあらぬ方を見て言いながら“鍵”を掲げた。仕方がないのでアヤノもそれに倣う。
ステージを移動する。
「――! 空!?」
それは船の甲板のような、それでいてやたらとだだっ広いスペースだった。アルが走っていって縁から下をのぞき込み、目をきらきらさせてふり返る。
「空に浮いてんぞ、この船!!」
「船上とは聞いたが。広いな」
ショップは敷物を広げて路上販売のように開いているようだ。予想外の光景に胸を高鳴らせていると、例のごとくショウの説明が入る。
「甲板がセーフティエリア、船内がバトルフィールド。中の感じは“迷宮”のオラクルエリアに似てるかな。こっちの道は迷路っていうほど複雑じゃないけど。……じゃあ準備、しておこうか」
まだ苦笑いが混じっていた。
とにもかくにも回復アイテムを補給し、5人で船室の扉のひとつをくぐる。しかしなぜか、ダンテが後込みをした――ように見えた。そして、どうかしたのかとアヤノが尋ねかけたところで。
「アヤ」
ショウにがっちりと肩をつかまれた。
「落ち着いてね。大丈夫だから、取り乱さないでね」
「……?」
「敵が、来るぞ」
ダンテがわずかに声を上擦らせた。早くも現れた黒い陽炎。いつもと同じように、凝って敵の形をとって――
「ひ……っ!」
アヤノはのどを詰まらせた。
「なぁにこれ、趣味悪いデザインねぇ」
「あー、と、あれってゴk」
「違うからね。デザインの参考にされてるかもしれないけどただの黒くてカサカサ動く虫だからね」
「つまりそういうことじゃねぇかよ!」
ショウとアルのやりとりなどほとんど上の空だった。アヤノは黒光りする敵を前に硬直してしまった。悲鳴を上げるほどではないが、それなりには、苦手だ。
「はいそれじゃあ1回敵の姿を確認したことだし外に出ようかみんな!」
まだ入り口付近にいる。腕を引かれてきびすを返し、半ばよろめきながら外へ出ると、止まりかけていた息が一気に吐き出された。
やっと人心地ついたので顔を上げる。まず目に入ったのはダンテだ。気分が悪そうに口元を押さえている。対してまったく平然としているのがアル。意外やユーリにも臆した様子はなかった。
「ショウも、平気なの。あれ」
「もう平気になったかな。最初はちょっとアレだったけど」
「そうなんだ」
「……あれは。プレイヤーから苦情があったりは、しないのか」
うめくようにダンテが問う。ショウはアヤノの両肩を持ったままで苦笑混じりに答えた。
「もちろん来るよ。でも戦ってるうちに『あれをたたき潰すのが気持ちいい』って思うようになる人が多いみたいだ」
「そういう、ものか」
「らしいよ? ……ダンテ、大丈夫?」
よっぽど“あれ”が苦手らしい。たぶん、アヤノよりもさらに。
もう1度フィールドへ入ることにかなり抵抗がある様子だった。だからだろうか、ショウが軽く笑い声を立て、扉とは逆の方を指さした。
「いったん休憩。さっそくだけど、あれ、始めようか」
「なんだ?」
「少し話そうか。言い出した責任ってことで、まずは僕の話」
「あら」
なるほど始めるのか、という空気の中でユーリがしなをつくった。
「ショウ君のことだったらちょおっと興味あるわねぇ」
「そう? そんなに大した話はないよ?」
ショウが手招きをする。そうして他のプレイヤーが少ない場所を探し移動を始めた。
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