プロフィール -1-
アレースの神殿を出たアヤノ達は、まず第1ステージに引き返した。
そうして、ショウと運営のやりとりを全員で見守ることになった。ショウが口頭で伝えたことをダンテがメッセージにして送信する。向こうも張りつきで待機しているらしく、再返信は早い。
「おじさん
連絡がとれてよかった。僕はとりあえず生きてはいるのかな。
状況としては、前に“アヤノ”について報告したのと同じ現象が起きた。
アヤノ、アレキサンダー、ユリウス。そして僕。
4人がゲーム内から出られない。
現在位置は第1ステージのセーフティエリア。今のところ全員無事でいる。
こっちも外の状況を知りたい。また連絡して。
ショウ」
『ショウ
以前プレイヤー“アヤノ”について、素性がわかりそうだという話をしたと思う。
結果、九分九厘間違いないだろうという人物をつきとめた。彼女もまた眠ったまま目を覚まさずにいるらしい。お前と同じようにだ。
残念ながら、“アレキサンダー”と“ユリウス”はこちらで捕捉できていない。どうにかして調べてみるつもりではあるが。
わかったことはその都度連絡する。
リョウジ』
「ひとつだけ“アヤノ”について教えてほしい。
彼女の本名は? 」
『それを聞いてどうなるものとも思えんが……
“新庄綺乃”だ。こちらの調べ間違いでなければな。』
最後の返信と見たと同時に、アヤノははっと息を呑んだ。
「しんじょう……あやの……」
「アヤ、――もしかして」
ショウに勢いよく肩をつかまれ、ゆっくりとうなずく。
口に出したことでよりはっきりした。これ以上なくしっくりくるその響きは、きっと間違いない。
「“新庄綺乃”。わたしの、名前」
「マジか! 思い出したんだな!」
「あらぁアヤちゃんて本名だったのねぇ」
「ようやく一歩前進といったところか」
「……みんな。聞いて」
ショウはアヤノから離れた。皆の注意を引くように手を上げる。
「これではっきりした。言葉にして確認すれば何か思い出すこともある。逆に意識していないと、記憶が失われてくみたいだ。だから定期的に、思い出しの作業をした方がいいんじゃないかな」
「思い出し、っつーと」
「ひとつ提案。これからは休憩の時間中、順に自分のことを話していこう。他人に知られてもいいって範囲でかまわない。そうすれば、ある程度は幻想症候群の進行を食い止められると思う」
「そういうことか」
アルとダンテがうなずいた。相変わらずユーリだけは、眉を寄せてちょっとばかり不本意そうにした。
アヤノはといえば、少し困ってしまった。話そうにも話せるような記憶がほとんどない。そんな思いが顔に出たのか、ショウがぽんと肩をたたいてきた。
「なんでもいいんだ。本当にちょっとしてことでも。話してるうちに取り戻せるものがきっとある」
「……うん」
「あと、アヤとアルはひとつずつ魔法を取得してほしい。これはまた別の、“モザイク”対策として」
この一言で、空気が一気に緊張した。不定期に襲ってくる、いまだに正体不明の“あれ”。とにかく魔法で撃退できることだけはわかっているから、ショウの指示は妥当だ。
「攻撃でも防御でも、どっちでも。次に能力値が溜まったらね。今できるのはこんなところかな……」
ショウが息をつくと、自然とみんなが黙り込んだ。それぞれに物思いがあるようだった。もちろんアヤノにも。
そんな中で、ふと口を開いたのはアルだった。
「なあ。アヤは“綺乃”で、ショウは“翔一”だろ? オレも一応言っとくな。リアルでの名前は“斉藤昂”ってんだ」
「……アル」
「どうせ後で言うんなら今でもいいじゃん」
と、不意にダンテが小さく息を吐いた。決意を固めた表情だった。
「俺は――」
「ダンテ。君はまだ幻想症候群にかかってない。無理に名前を明かす必要はないよ?」
ショウが驚いたように止めるが、ダンテは首を振った。
「俺はすでに3人の名を聞いた。自分だけ知らせずにおくのはフェアではない」
「いいの? 本当に……」
「ああ。俺は、“神谷淳”だ」
「神谷、か」
「……」
名前を聞いていないのは、これであとは1人だけ。けれど教えるだろうかと、アヤノはユーリを窺った。
また、沈黙。
そして数秒後。
「――ゆうや。“工藤祐也”」
ユーリがぼそりとつぶやいて、アヤノはぱちぱちと瞬いた。
男性名だ。やっぱり、男だったのか。
「なによ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
思いきりそっぽを向くユーリを、ショウ以外は複雑な目で見ていた。
それでもとにかく。これで全員が全員の本質の一部を共有した。
「ユーリ。ありがとう」
「お礼するところじゃないと思うわ」
「僕が言っておきたかっただけだよ」
「そんじゃ、あとは進むだけ、だよな? 変わらないよな、ラストステージを目指すってのはさ!」
ショウがうなずく。ダンテも、仕方なさそうではあるが、もう反対しない。
「他に手段もなさそうだからな……」
「ダンテはそろそろ落ちる時間?」
「ああ」
「それじゃ、君が戻ってきたら次へ進もう。第6ステージ――船上のステージに」
また新たなステージが開く。
アヤノはそれを思い、改めて気が引き締まるのを感じた。
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