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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第5ステージ:荒野
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オラクル Ver. アレース -4-


 やっぱり数が数だ。それなりに時間はかかってしまった。ただ、無理だと思うようなことはない。ここには5人いる。それに何より、ショウが『大丈夫』と言ったから。

「おおかた片づいたか?」

「んもう、ここまでですっかりくたびれちゃったわよぉ」

「残ってんのは――6匹か? いよいよボス戦みてーだな」

 アルが若干凶暴そうな目をして、ぺろりと唇を舐めた。アヤノも妙な高揚感を抱えこんでいる。ここまでの連戦でずっと緊張していたせいだろうか。ぶうぶうと文句ばかりのユーリでさえ、本当は疲労より好戦的な気分が勝っていると目に見えてわかる。

 視線を上げる。十数メートル先のある場所を境に、色の違う砂が広がっている。そしてその一角だけは身を隠せるほどの大きな岩がごつごつとせり出していた。

 全員が互いに見合った。うなずき、タイミングを合わせて走り込む。境界線を超えたと同時に3方向へ散る。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 びりびりと空気を震わすような野太い声を上げ、岩陰から巨大な影が飛びだした。

 異様な姿だった。ライオンとヤギの双頭。尾のあるべき場所には蛇が鎌首をもたげている。見たことのない化け物の出現に、アヤノは一瞬気を呑まれた。

「あれは“キマイラ”、神話上の合成獣だ! 見た目はシュールだけど、今までの敵と基本は同じだから!」

 叫んだショウは右向こう、反対側にダンテとアル。そしてアヤノはユーリと共に岩陰へと滑り込んだ。

 が、その目の前で即座に黒陽炎が立ちのぼった。とった形は、サソリだ。


使役獣召喚プロスクリシー!!』


 シャンッとユーリの錫杖が鳴る。飛び出した大蛇ヒドラがサソリの尾を噛み、思いきり放り投げた。サソリはその勢いでひっくり返り腹をさらす。アヤノはその真上に跳んだ。切っ先を下へ向け、全体重をたたきつける。

 腹部もやわい仕様らしく、大ダメージの赤い数字が表示された。

 起きあがれずにもがいているところをもう1度斬りつけると、サソリは姿を崩した。多少の余裕が戻ると、耳があちこちの声と音を拾う。銃声、魔法詠唱、砂を岩を蹴る微かな足音。

「次は――」

「上よ!」

 影がよぎった。見上げた空にはハゲタカが旋回している。

 そこでアヤノはとっさに思いついた。


『システム:ボックス:ロングソード』


 曲刀タルワールを左に持ち替え、右手に最初の剣を呼び出す。

 それを槍のように投げつけた。

「あらま」

「ユーリ!」


魔法マギア:ソーク!』


 剣は羽根の根本に命中した。間髪入れず風の攻撃魔法が追い打ちをかける。

 ハゲタカが落ちてくるまでの間に背伸びをして見回すと、打ち合わせの通り、肝心のボスはショウが引きつけ足止めしていた。狭い範囲を飛び回り浅い攻撃をくり返す。傍目にはひやひやするほど、キマイラの至近距離に張りついてそれをこなす。まるで巨大な猫をじゃらしているだけのような気安さで。

「ちょっとアヤちゃん、よそ見してないで!」

「大丈夫」

 砂を蹴り、曲刀を真横に薙ぐ。しかしハゲタカが急に身を起こしたため浅くしか入らなかった。羽根がばさりと広がる。空から攻撃されると厄介だ。アヤノはステップを踏み、力いっぱい鳥頭を蹴りつけた。

 ぎゃ、と潰れた鳴き声。その勢いのまま容赦なくのど元に刃を突き立てにいく。

 クリティカルとはいかないが、大きくダメージを与えた。そこへ大口を開けた大蛇が食らいつき、とどめを刺した。

「2匹! 終わった!」

「こっちも2匹やったぜ! もうすぐ加勢できっからな、ショウ!」

「わかった!」

 残数2。雑魚があともう1体だけ出現するはずだ。それとも岩陰にいるだけでもう出ているかもしれない。アヤノ達4人はおのおので探り始めた。

 ――みつけた。

 奥の岩の向こうでゆらりと黒が歪んだ。それを報せようと口を開きかけ。

 アヤノは耳を疑った。


「いたぞ、こっちだ!」


 アルの興奮した声にダンテとユーリが反応し駆けつけていく。アヤノがひとり、混乱気味にあちらとこちらを見比べるうち、陽炎は見上げるほど高く立ち上がった。

 ――モザイク……!?

 ともかくアヤノはそれに向けて剣を構えた。思い出す。前にユーリが“これ”にやられて。

 貫かれて。

 そして、


 それから……?


 一瞬思考が止まった。それを見抜いたとでもいうのか、モザイク柄の流動体の一部が触手のように伸び、襲いかかってきた。


魔法マギア:フロガ! ――魔法マギア:アフティダ!!』


 本体ごとそれを吹き飛ばしたのはショウの火球だった。続けざまの呪文はキマイラに向けて。放たれた光線がライオンのひたいを貫く。そして、苦悶し大きく開いた口の中にショウの大剣が吸い込まれた。

「お、おいショウ!?」

 アヤノは剣を下ろした。やや気が抜けた状態になっている。そこでふと、視界の端の数字に気がついた。


 敵残数――0。


 その時にはまだ、アル達がジャッカル相手にやりあっていた。



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