オラクル Ver. アレース -1-
しばらく敵を狩ることに明け暮れて、レベルも上がった。アイテムも揃えた。
そしてアヤノは、とうとう新しい武器を手に入れた。
「おー、いいじゃん。よかったなーアヤ!」
「“タルワール”。だって」
「これで攻撃力は高くなったはずだよ。それと、オプションがついてる。ある程度の魔法攻撃なら防御できるんだ」
最初に持った長剣より、若干幅広で反りのある片刃の剣。柄には“戦士”を表す赤い石。とにかく見た目は好みだ。扱いがどんなものかはまださっぱりわからないけれど。
「実戦、してみたい?」
見計らったように声をかけられ、反射的にふり返って大きくうなずく。しかしダンテが割って入った。黒い瞳は何やら困惑しているように見えた。
「すぐにフィールドへ出るということか。多少なりと慣らしておくべきではないか?」
「実戦で覚える方が早いよ。全員揃ってることだし、危険な思いはさせない。大丈夫」
「しかし……このオープンなステージでは不安が残る。敵の発生頻度はランダムなのだろう。場合によっては囲まれる。慣れない武器で捌けるか。第一、彼女は――」
言い終える前に、そうか、とショウがうなずいた。思案する風に青眼が揺れた。
「それは一理あるかもしれない。それじゃあどうしようか」
「提案する」
ダンテが掲げたのは“鍵”のひとつだった。石の色は紫。1番はじめの、ヘラが守護する市街ステージのものだ。
「なるほどね。それはいいかもしれない」
「戻るの?」
「あ! “紋章”か!」
わかったと言いたげにアルが指を鳴らした。
第1ステージの“紋章”といえば。まだダンテとユーリが取得しておらず、いずれ獲りに行こうと話したことがある。それなら納得だ。
「肩慣らしにはちょうどよさそうだね。最初の頃からどれくらい上達したかも実感できると思うよ。それでいいかな?」
「ん」
「おー!」
「ヘラの“紋章”は……防御力の増強? 悪くないわね」
面倒くさい等の文句が予想されたユーリもまんざらではなさそうで、結果、反対意見はなかった。
5人はすぐさま第1ステージに舞い戻った。
そうして、まっすぐ“オラクル”へと向かった。
――遅い……軽い……!
再びやってきた、薄紫がかった空の下。石畳を駆けながら、アヤノは驚愕と共に曲刀を振り抜いた。
犬もカラスも、やたらアクティブな花も。第5ステージのモンスター達と比べてしまえばとてつもなくあしらいやすい。たったひと薙ぎで紙のように切り裂くことができるほどだ。初心者の頃、助けてくれたショウがそうだったように。
ふと顧みればアヤノのレベルも80を超えた。もうすぐ初対面の時のショウに追いつける。もちろん現在のショウは、もっともっと、遙か先を歩いているわけだが。
「どう、アヤ?」
すれ違いざま、ショウが笑顔と共に耳打ちしてきた。
すぐ近くに敵がいたため答えそびれたが、可能ならばアヤノはこう答えただろう。
『楽しい』
「さあ! あとはボスを残すのみだよ!」
息もつかずになだれ込んだ巨大イノシシのテリトリー。しかし以前ほどの威圧は感じられず、逆に気を抜かないよう自分に言い聞かせる必要があった。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
ユーリの積極的な支援もあり、見る間にイノシシの生命力が減っていく。
削る。たぶん、あと少し。
あと――
「アヤ」
不意にぽんと背を押され、その勢いで飛び出した。
振りかざした曲刀もまた軽い。けれど握り手に頼もしさを感じるのは、ヒットさせたときの手応えが違うから。
力いっぱい振り下ろした。大きくダメージが表示され、イノシシはあっけなく崩れ落ちた。
「っひゃー、こんなに違うもんなのか」
歓声を上げたアルがくるりとふり返る。にやりと笑って顎で曲刀を示す。
「んで? どうよ、新しいヤツの具合」
「いい」
一言で答えると、あちらでは失笑、こちらでは何かを誤魔化すような咳払いが聞こえた。なんで、と睨み気味に見回すが、別に怒ったわけではない。
それもまた――楽しい。
「気に入ったならよかった。見てた限りでも相性は良さそうだったよ。もう心配いらない、かな?」
ショウが仕切直すように言って、皆の注目を引くようにひらりと手をかざした。
次のセリフは予想がついた。アヤノは期待のまなざしをその手に向けていた。
「それじゃあ次は、本番に臨もうか。第5ステージの“オラクル”に」
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