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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第5ステージ:荒野
73/200

アラート -4-


 自分が持っている最速最大の攻撃。ただ一点を見据えて突きをたたき込んだ。

 ハゲタカが甲高く声を上げ、大きく羽根を広げて静止する。姿が崩れる。

 アヤノの勝ちだ。

「ショウ」

「こっちは終わってるよ」

 どうやらひと段落らしい。自然と寄り集まって互いを見合い、無事を確認する。

「アヤ、少し食らった?」

 目の合ったショウが、ふと心配そうに眉尻を下げた。言われて思い出したと同時に、羽に掠められたこめかみがじくじくと痛みだす。画面で確認すると思いのほか削られていて、さすがに反省した。自分の状態はもっとまめに確認しなれば。生命力ライフゲージが最低限しかないアヤノは、回復のタイミングを逃せば命に関わる。

「生命力回復と魔力回復、今どっちが多いかな?」

 ショウが皆を見回す。魔力回復アイテムの方が多ければ回復魔法を使う方がいいのだろうけれど、全員の所持品を合わせてみると生命力系の方が多かった。


『システム:ボックス:マルメロ』


「他は大丈夫そうだね」

「おうよ!」

「……ん、どうかした?」

 ぴくりと顔を上げたダンテが、そのまま動きを止めていた。しばらくあらぬ方を見上げていたのが、やがて視線が下りると困ったような表情になっていた。

「すまない。しばらく抜ける」

「何かあったの」

「ああ。できるだけ早く戻るようにするが」

「こっちは大丈夫だよ。また後で」

「すまない」

 ダンテはきびすを返し、歩いていった。途中、ふ、とショウが息を吐いた。

「どうしようか。もう少しやる? 一度戻っておく?」

「せっかくだからまだやってこーぜ」

「オーケー。ただし1人欠けたから、セーフティエリアから遠くない場所でね」

「よくやるわねぇあんた達……まあ他にすることもないんだけど」

「そう言わないでよ、ユーリ」

「……。……?」

 まただ。妙な違和感が胸をかすめ、アヤノはそっと首をかしげる。

 けれどその正体を突き止める間もなく、ショウ達は歩き出た。

 そして。


「あの……すいません!」


 揃ってふり返った時には、そんなわずかな違和感は吹き飛んでしまっていた。

 声の主はといえば緊張した面もちの少女だった。確か、先ほどこのステージで助けた4人組の1人。他のメンバーは、今度はいないようだ。

「僕達に、何か用?」

 可愛らしい見目の少女は、急にそっけなくなったショウにもめげなかった。片手でふわふわのスカートを握りつつもまっすぐにショウを見上げている。

「もう1度助けてもらったお礼をしたかったのと……それと、お願いがあって」

「お願い?」

「いっしょに行きたいんです、私も! ショウさんのパーティ、5人ですよね? オラクルエリアに入れるのって最大6人ですよね? だから……!」

「……」

 アヤノがショウを見ると、ショウは、妙に冷たい目をしていた。

「!」

 突然、黒が翻った。瞬間的にさまよった視線が再び黒装束を捉えたときには、湧いて出たばかりだったのだろうサソリに大剣が突き刺さっていた。さっきアヤノが狙って失敗した、首の後ろの部分。さすがショウだ。たった一撃で仕留めるなんて。

 サソリが消えきる前に軽い身のこなしで飛び降り、ショウは肩越しにふり返った。

 変わらず冷えたままのまなざしが少女を捉えた。


「来るの? ……僕達と?」


 嘲笑しているように見えた。びくりとして1歩下がった少女の横で、アヤノも思わず肩をすくめた。

「あ、え、と――」

「この先を進むのは簡単じゃないよ。それに僕達は、“オラクル”の完全攻略を目指してる。ついてこられる? 自信はある?」

「……っ」

「そこにいる3人は、ここまでちゃんと鍛えてきてるよ」

「お、おい、ショウ」

 そこまで言わなくてもいいだろう。そう言いたげなアルにショウはひらりと手を振って見せた。

 その一瞬だけ、時折見せる類の苦笑がのぞいたような気もした。

「で。どうするの?」

 確認ではなく拒絶の言葉。彼女にもそれはわかるのだろう。唇を噛み、きゅっと眉根を寄せて、ぷるぷる震えながら下を向く。

「……すみません、でした。私……たぶんまだ、ムリ、です」

 やがて少女が絞り出すようにつぶやいた。

 するとショウは、いくぶんか口調をやわらかくした。

「ごめん。今のところはこのメンバーでやっていきたいんだ」

「いえ、私の方こそ! 急に変なお願いしてすみませんでした!」

 少女が深く、潔く頭を下げた。ごねるつもりはないらしい。再度上げた顔は寂しそうな、しかしどこかすっきりしたものだった。

「でも……いつか強くなれたら、私、きっとまた来ますから!」

「そういうことなら楽しみにしてる」

「それじゃ、私行きますね」

 巻き毛を揺らしてもう一度ぴょこんと頭を下げ、少女は笑んだ。


「本当に、キノuはありがとうございました!」


 アヤノは瞬いた。途中よく聞こえない部分があった。

 なんと言ったのか、聞き返そうとして――しかし思い直す。

 アルもユーリも、何よりショウが、聞き逃したような様子ではない。それならわざわざ確認しなくていいだろう。大したことではない。

 たぶん。

 戦士の少女は去っていった。そして、ショウが微苦笑を浮かべてこちらを見た。


「調子が狂っちゃったね。いったん戻っていいかな……“セーフティエリア”に」


 誰も反対しなかった。

 誰も、何も、聞き返すことをしようとしなかった。




第3章2節 了

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