アラート -3-
アヤノ達は四方に散った。と同時にハゲタカは突っ込んできた。嘴が地面を抉っていく。またすぐに舞い上がって旋回を始める。
どうやら降りてきた時にしか攻撃できないようだ。接近戦専門のアヤノにはやりにくそうだった。
「どうする? 僕は勝てるけど……やってみる?」
油断なく様子を窺いながらショウが言う。と――
「「やる!」」
アヤノと同時にアルが答えた。そして何も言わないが、ダンテも宝剣を提げて身構える。ユーリだけは数歩離れて観戦の構えだ。
「ここは任せるわぁ。みんながんばってねぇ~」
悪びれずもせず手を振るのをひとまず置いておき、アヤノは剣先を空へと向ける。
「アル、届く?」
以前聞いた覚えがある。アルの銃は威力が強い代わりに射程範囲が短いらしい。案の定、赤い眼は苦く細められた。
「こっからじゃちょっと厳しいな」
「じゃあ待つしかない?」
「いや。俺が落とそう」
ダンテが、静かに進み出た。
『――魔法:スィエラ』
旋風が空へ放たれるた。片羽根に直撃を受けたハゲタカは、一声鳴いて落ちてきた。
合図の必要はなかった。アヤノとアルは同時に動いた。
それぞれが可能な限りの攻撃を加え、羽根が持ち上がったところで離脱する。
「おっし、いい感じだな!」
「もう1回――」
「待て!」
ハゲタカの動作パターンがさっきと違う。ばさりばさりと羽ばたいて、ひときわ大きく羽根を動かす。ショウとダンテの声がほぼ同時に響いた。
「魔法攻撃だ!!」
『魔法:カタラクティス!』
防御水壁に、ハゲタカの起こした衝撃波がぶつかる。わずかな圧迫感と共にダメージ表示が飛ぶ。完全には防ぎきれなかったようだ。
「く……」
「あ。ねえ、ダンテ」
ふと思いついて黒いマントの端を引いた。二言三言耳打ちすると、すぐにわかってくれたらしい。少し下がってこちらに背を向け、腰を折る。
「何やってんだよ2人とも?」
「いいぞ。タイミングを誤るな」
「わかってる」
そう答えた次の瞬間、アヤノは砂の地面を蹴った。
上空のハゲタカは攻撃を終えて滞空している。それをめがけて。ダンテの背中を踏み台に、跳んだ。
緩やかに旋回する、その翼に斬りつける。
甲高い悲鳴を上げてハゲタカが暴れ、その拍子にアヤノは空中でバランスを崩した。
落ちる――
どう着地すればいいかと焦り気味におもったところで、不意に体をさらわれる。すぐにふわりと足がつき、顔を仰向けると、青い眼に見下ろされていた。
「大丈夫?」
「あ、……うん」
「まだやれる?」
もちろんだ。その意味を込めて思いきりうなずくと、ショウは笑って手を離した。
乾いた微風が髪を揺らす。――羽音がする。アヤノは即座に剣を上げた。
「!」
息を呑む気配と共にショウの方も離れていく。また別の息づかいが聞こえた。もしかして新しい敵が発生したのか。
「こっちは引き受けるから!」
「――アヤ、鳥がそっち行くぞ!」
滑空。ショウと新手に気を取られたせいで、少しだけ目測を誤った。
「い、つっ」
羽根がこめかみをかすめた。軽い衝撃と、浅く切れたような感触。ただ、血は出ていないようだ。だからきっと大丈夫。
体勢を立て直して駆けだした。ダンテが魔法を撃つ体勢に入っている。あと少しの間滞空しているはずのハゲタカを地面に引きずり下ろすため。
『スィエラ!』
銃声を聞きながら切っ先を前方へ向けた。
突進する。地面に垂れた頭部を狙って。




