アラート -2-
ダンテと合流した後、いつも通りにフィールドへ出る。
その初っぱなに出くわしたのは、サソリ1体とジャッカルが2体。アヤノが迷わずサソリに向かうと、ショウ達は黙って背を合わせてくれた。
「本物といっしょで、針に毒があるから気をつけて」
「わかった」
「もし刺されたら教えて。解毒薬は仕入れて――」
語尾はジャッカルの咆吼に紛れたが、ここまで聞けば充分だ。
アヤノは横に回り込みながらサソリの動きを観察し始めた。敵モンスターそれぞれの攻撃のパターンとリズム、攻撃前の前兆。それが見えれば戦いはずっと楽になる。
「アル、そっちをたのむ! ユーリは離れて!」
「任せろ!」
「わかってるわよ!」
『魔法:アンベロス』
拘束効果を持つダンテの魔法。ジャッカルの短い悲鳴が上がったと同時に、サソリも唐突な移動を始めた。カサカサと乾いた足音を立て、予想外のスピードで追いかけてくる。
ハサミを大きく左右に広げ、ハグするように閉じる。
ガチンと硬質な音。どうやらこれが最大威力の攻撃か。
しかし。
「速さなら、負けない」
アルに言われて以来、能力値を攻撃力と体力に振り分けてきたので、運動能力もそこそこ上がっている。
今の段階で、たぶん少しだけアヤノの方が速い。
それに、だいぶわかってきた。サソリには次の動きに入る前のほんのわずかな隙がある。ハサミで抱きつき攻撃の次に、尾の毒針を突きだして。
――ここだ。
「やっ!!」
目を狙って斬りかかる。手応えはあった。その瞬間思い立ち、勢いのままサソリの背に飛び乗った。カマキリの時と同じだ。
迷わず首の付け根、硬い外殻の継ぎ目めがけて剣を振り下ろす。が、寸前で身動きされ足場が揺れた。切っ先ははじかれダメージに至らない。
黒い背中を蹴り地面に落ちて、転がりながら距離を取る。
が、起きあがったと同時にとっさに後ろへ跳んだ。その鼻先を掠めるようにジャッカルの爪が通り過ぎた。
『魔法:フロガ!!』
ショウの火炎強攻撃がそれを追った。はじき飛ばされたジャッカルが地面にたたきつけられ、痙攣しながら形を崩した。
『魔法:プリミラ』
広域水流。もう1体のジャッカルとサソリを巻き込む。ジャッカルは消え、サソリは体勢を立て直そうとするようにぶるりと身を揺すった。
アルの銃弾とショウの投げナイフが空を裂く。アヤノは駆けて足に浅く斬りつけた。
『プリミラ!』
連続の攻撃魔法でサソリも倒れた。アヤノがふり返ると、ダンテが息を吐きながら宝剣を下ろしたところだった。その向こうでショウが手を上げかけ、しかしすぐに、はっと目を開く。
「アルっ」
呼ばれるより早くアルが飛び出した。甲高い鳴き声声に、アヤノもふり向きざまに剣を振った。
刃先がかすめた感触と同時に、ばさりばさりと羽音が聞こえる。
鳥だ。両羽根を広げれば、アヤノが両腕を広げたよりもずっと大きい。見上げたアルが「おー!」と声を上げる。
「あれ、あれってなんてんだっけ! 写真で見たことあるって!」
多少デフォルメされているのか、首が細く長く、頭部が薄いあのシルエットは。
「ハゲタカだね。魔法攻撃に気をつけて!」
「おうよ!」
「わかった」
「了解した」
「んもう、このステージったら速そうなのばっかり!」
ハゲタカが羽ばたき上昇した。それは明らかに、滑空の前触れだった。




