ディスコード -2-
『ワープ;フィフスステージ』
4回目となるとステージ移動も手慣れたものだ。アポロンから受け取った茶色い石の鍵を手に、アヤノ達は次々と“はじまりの扉”をくぐる。5人揃うまでにほとんど時間はかからなかった。
「第5ステージ! 来たぞー!」
「攻略では“荒野”のステージとあったが」
アルとダンテがセーフティエリアの外を眺めている。ショウはその2人の肩をたたいた。
「そう。この外のフィールドは荒れ野になってる。守護神はアレース。戦いの神だけに粗野、っていう設定だけど、ゲーム内ではそれなりに修正してあるよ」
「へー」
「神を相手に戦うわけではないのだから、外見が整っていればゲームの主旨には添っているということだな」
「そうだね」
「そんなことどうでもいいでしょ、早くフィールドに出ましょうよぉ。時間の無駄ぁ」
瞬間的にいやな空気が流れた気もしたが――主にアルがとてつもなくいやそうな顔をしたが――ユーリの言うことはもっともだ。5人はいくらか買い物をして、その足でフィールドへと向かった。
「おおっ、おおおおぉっ」
セーフティエリアの出口に立つと、アルが打って変わって歓声を上げた。
だだっ広い空間が広がっていた。荒れ野と聞いてアヤノが想像したのは第2ステージに似た野っぱらだったが、実際はところどころに枯れ草が生えているだけの赤茶けた砂地だ。大小の岩が転がっているのも見える。
「これは、ルートはどうなっている?」
「第5ステージにはルートを仕切ってないんだ。全領域で戦える。その分敵も全方位から狙ってくるから注意して」
「へーそうなのか!」
「了解した。これまでとは意識を変える必要がありそうだ」
ダンテの言にショウがうなずく。その表情はどこか嬉しそうだ。
「そうだね。基本的な戦術は変えなくていいと思う。あとは『習うより慣れろ』かな」
「おっし、じゃあさっそく行こうぜ!」
元気よく駆けだしていくアルに苦笑顔のショウが続き、アヤノ達もその後を追った。
視界の良い――良すぎるフィールド。他のプレイヤー達の姿もよく見える。これは、場合によっては他のパーティと共闘ということになるのかもしれない。
が。
「あまり他のグループとは近づきすぎない方がいいよ。人数が増えれば敵を倒すのは楽だけど、プレイヤー同士のトラブルになることもあるから」
「? なるの?」
「第4ステージまででもな。特に経験値を取ったの取らないのっていちゃもんつけてくる奴が意外といたからなー。ルールだけじゃなくてマナーも守れってんだよな」
アルは何か思いだしたらしく思いきり頬を膨らませた。思わずつつきたくなって伸ばしかけた手を寸前で引っ込め、アヤノは神妙にうなずいた。
「そうなんだ。気をつける」
「それにしても、あんたがそれ言うと違和感あるわねぇ」
もはや恒例のようなユーリの茶々にアルが胸を張る。
「バカにすんな! オレは仁義は通す方だ!」
「じん……仁義って? 何ソレ? いつの時代の話よぉ?」
「なに笑ってんだてめー!」
「――アル、ユーリ」
ショウが声を上げたと同時に、言い争っていた2人も素早く戦闘態勢に入った。
おなじみの黒い陽炎。凝って現れたのは二体の獣だ。
「ジャッカルか――こいつらには魔法はないけど、動きが速いよ!」
返事などする暇もなく、オオカミに似たフォルムの二体が飛びかかってきた。
「!」
きっちりよけたつもりだったのに、アヤノの腕を硬い感触がかすめた。本当に速い。次のモーションへの移行も早い。
隙はあるのか。攻撃のチャンスは?
「アヤ! 焦らないで、よく見て!」
見ること。それはいつでもどんな時でも変わることのない基本だと最初に教わった。それを思い出すと少し落ち着くことができた。
回避行動は今までよりも余裕をもって。ステップを踏みながら様子を窺う。と、向こうの方に一人離れているユーリが見えた。
「おい、なんで逃げてんだ!」
「私はあんまり体力に振ってないのよ! ていうか逃げたわけじゃないし!」
苛立ちを込めて言い返し、ユーリは錫杖を掲げた。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
召喚獣の蛇が現れ大きく口を開いた。
一瞬、アヤノも口を開けた。
「お、大きく、なった?」
「レベルアップさせたのよ、いいでしょぉ?」
アヤノの身長ほどだった大蛇は、ダンテの身長を超えるところまで成長していた。いつの間にか能力値をつぎ込んでいたらしい。
蛇の喉からジャラジャラという音が漏れた。同時に俊敏な動きでジャッカルに襲いかかっていった。




