ディスコード -1-
『ショウか? すぐに出られなくて悪かった。こっちもそこそこ忙しくてな……
何か状況の変化でもあったか。
ん? なんだよ寝てるのか?
おーい。もしもーし。
おー……
おい? どうしたんだ、翔!? 返事してくれ――おい!!』
* * * * *
思ったよりも早くショウが戻ってきた。というか早すぎる。「また後で」と消えてから、ほんの10分も経ったかどうか。ふと見るとアルもユーリもそんなことを考えているような顔だ。
「みんな、どうかした?」
ひとり不思議そうなショウに、銃を首の後ろに担ぎながらアルが言う。
「もう報告終わらせてきたのか?」
「というか、連絡がつかなかった。新しく報告することがあるわけでもなかったし、後でいいかと思って戻ってきたんだ」
「へー?」
「さてと、……困ったな」
ショウはふいとフィールドへ目をやった。
この世界には「雨」も「夜」も設定されていない。今も今までとずっと変わらず、雲1つない青空のまま。その下で談笑したり商品を物色していたプレイヤーが、ひとり、またひとりと減っていく。“外”はそういう時間なのだろう。
「で? 何が困ったのよ?」
「ダンテがね。さすがに、そろそろ……」
「経験値か?」
「まあ、そういうこと」
アヤノも少し前から気になっていた。ダンテはいつも戦闘の補助に回りがちで、敵にとどめをさす機会が少ない。経験値を稼ぎづらいのだ。
それに、“テオス・クレイス”内にいる時間のこともある。アヤノ達は彼を待っている間にも訓練を兼ねて敵と戦っていることが多い。だからダンテとはどんどん獲得経験値もレベルも離れていく――
「仕方ないと言えば仕方ないんだけど。ただ、あまり差がつきすぎるとダンテがついて来られなくなるかもしれない」
「それこそ仕方ないってことでしょぉ? ついて来られないならもっとがんばってもらうとかぁ、それでもダメならパーティからはずしたっていいじゃない」
「!」
あまりにもあっさりと、ユーリは言い放った。さすがにアヤノもむっとしてすました横顔を睨んだ。
「ダンテは仲間。はずすなんて、ない」
「いきなり何言い出しやがる」
「あーはいはい。仲がよくていいわねぇ。……ほんと、気持ち悪」
「んだと!?」
「待って……3人とも、ちょっと落ち着いて」
ショウがやんわりと止めに入った。その表情も曇ってはいたが。
アヤノはひとまず口を閉じた。アルも紅潮した頬をふくらませつつ黙ったが、ユーリはそっぽを向いたまま嘲笑う。
「私は仲良しこよしでやるつもりなんてないの。足手まといはいらないわよ。ショウ君くらい強い人なら喜んでいっしょにやらせてもらうけど」
「ユーリ」
強い調子で遮ったショウは、含んだような笑みを浮かべた。急に、有無を言わさない鋭い空気が流れた。
「悪いけど。君がどう言おうとどう思おうと、ダンテ本人から申告がない限りははずさないよ。まだ異変に巻き込まれてない彼の存在は貴重なんだ」
「ふぅん? とことん利用するって主旨? そういうのはキライじゃないわよ?」
「なっ」
「アル、ストップ」
ユーリの挑発的なもの言いにもショウの表情は変わらない。
「けどよっ……」
「多少意見が違うのは仕方がないよ。だけど、ユーリもあまり反感を買うようなことを言わないで。思ってる分にはかまわないけど」
「言わないでなんの意味があるのよぉ」
「ところで……アヤ。お願いしたいことがあるんだけどいいかな」
強引に話題を変え、こちらを向くショウ。アヤは息を吸って、吐いて、もやもやした気分をこらえた。
「なに?」
「アヤもずいぶん戦えるようになったみたいだから、ひとつレベルが上の訓練だと思って。余裕のある時には決定打をダンテに譲ってほしい」
背筋が伸びた。ショウのことは信用している。だからこんな風に頼まれたことには応えたい。応えなければならない。
「やる」
「そっか。ありがとう」
「なあ、オレもそうした方がいいか?」
「してくれたらありがたいけど、手加減できるの?」
「……やれなくはない、はず!」
「じゃあ期待してる。ユーリは何もしなくていいからね。その代わり余計なことは言わないで。あとはダンテにアテナの“紋章”を活用してもらうくらいかな」
若干自信なさそうなアルが赤毛をかき回す。それを見たユーリがバカにしたように、また不満そうに眉をひそめているのはひとまず置いておく。
「さてと。活動時間が長くなったし、一度休憩を取ろう」
「慣れないのよねぇゲーム内で寝たふりなんて」
文句を言うユーリを見て、少し頭が冷える。なんだかんだと言いつつ基本的にはショウの指示に従うのだからおかしなものだ。
本当に、この人は。
「ここは人目につくから移動しよう。……アヤ?」
「わかった」
無理にでも落ち着くことにした。まだまだ、判断するには早い。
ということであってほしいと思いつつ、ショウについて歩き出した。
* * * * *




