オラクル Ver. アポロン -7-
火はまっすぐに伸びて石の地面を焼く。焼きながら、半獣はゆっくりと体を回転させていった。射程はそれなりに広い。しかし動きが遅いので、速度を合わせていっしょに回っていけばいいようだ。
火噴きの軌道を確認しながら移動しつつ、残っていたトカゲの一方にとどめを刺しておく。
ほとんど同時に、ダンテがもう一方に錫杖を突き立てた。残数1。これでもう邪魔は入らない。
「一斉攻撃!!」
ミノタウロスの魔法がとぎれる寸前、ショウが叫んだ。
ほぼすべてのモンスターの行動パターン。攻撃の後、わずかな間だけ動きが止まる。アヤノは迷わず剣を構えまっすぐ突っ込んだ。
脚を刺す。すぐに離れる。向こうから銃声が聞こえ、ユーリの召喚獣が啼いた。
ぐおおおおおおおおおおおおおっ
ミノタウロスは両腕を振り上げ、思いきり地面に振り下ろした。ドンッと地面が波打つような衝撃が走る。
大丈夫だ。まだ立っていられる。しかしすぐに、牛人が膝を沈めた。
突進――そう直感する。
「っ!!」
地面を蹴った瞬間ミノタウロスも動いた。どすどすとやかましい足音を立てながら。頭を下げて角を振り立てまっすぐに突進していく。
そのまま壁に激突した。ミノタウロス自体にダメージはなく、壁の方に亀裂が走る。その威力が凄まじいことはよくわかった。
『魔法:フロガ!』
『魔法:ソーク!』
ショウの炎系攻撃とユーリの風系攻撃が混ざり合った。ダメージ。苦悶の咆吼を放ってミノタウロスが身をよじる。
そして不意に右手を、次いで左手を振り回す。何かをつかむ動作。なるほど捕まったら危なそうだ。
「魔力残量は!」
ショウが壁を駆けながらダンテに視線を投げた。ダンテは難しげに眉を寄せた。
「あと1ゲージ分だ」
「……だったら、」
1度目を伏せた後はきっぱりと指示を出す。
迷いは見えない。だから信じて動ける。きっと皆も。
「防御は捨てて、攻撃に回って! 一気に攻めよう!」
言いながら自分もナイフを投げる。間を置かずに銃声が響き、ダンテとユーリが魔法を放った。
その時だった。
「!」
アヤノの脳裏で、ポン、とメッセージ着信音が鳴った。こんな時になんなのか。無視しようと思ったのだが、その前に勝手に画面が開き、否応なく目に入った。
『 ショウ に き を つ け て 』
「……え?」
「アヤっ」
さすがに気を取られた。そこへミノタウロスの魔法が襲う。ショウが飛びついてきてアヤノもろとも石床を転がり、ぎりぎりで炎を回避した。
「どうしたんだ!」
「ご、ごめん」
「ショウ、アヤ! よけろ!!」
目を上げるとミノタウロスが腕を振り上げたところだった。
アヤノはとっさに動けなかった。その視界にショウの黒服が覆い被さる。そして離れた場所でダンテの声。
『魔法:カタラクティス!!』
水の防御壁が2人を覆う。が、完全に防ぎきることはできなかったようだ。
ショウの生命力ゲージが少し減った。アヤノは思わず声を上げかけたが、無理やり抑えて代わりに剣を突きだした。
なんとか手先にかすらせた。ミノタウロスが1歩下がり、その隙に揃って跳ね起きる。
「生きてっか!?」
「僕は平気だ、アヤは!?」
「大丈夫!」
きつく剣を握りしめる。駄目だ、ここで気を散らしていては。
もうこれ以上迷惑はかけない。決意と共に牛の頭部を睨みつけた。あのメッセージは、後でまた確認する。
『召喚獣!!』
大蛇の攻撃にアルが続く。アヤノも駆けて、連続で足下を斬った。
「ショウ君! 私の魔力ゲージ、そろそろカラなんだけどぉ!」
「下がって、自分の防御に専念してて!」
ダンテよりも先にユーリが限界に来ていたようだ。しかしユーリのことだ、言われなくても身を守るだろうから大丈夫、のはず。
「あーくそ、さすがに体力ありやがるな!」
「俺も、もう最低限の魔法しか使えそうにない」
「わかった――ダンテも補助に戻って、いざというときの防御に備えて!」
その時だった。
ミノタウロスが吼えた。次いで、大きく足を上げた。
「……あれ?」
そこでアヤノは瞬いた。元から牛の頭は黒いものなのだが、それにしても。
――からだ……黒くなってる……?




