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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第4ステージ:迷宮
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オラクル Ver. アポロン -3-


 蜘蛛が、トカゲが壁を走ってくる。ともすると天井まで駆け上がる。コウモリは当然飛んでくる。つまりはあらゆる方向からの攻撃を想定しなければならない。しかもこちらが動けるスペースは狭いため、より神経をすり減らされる。

「アヤ、上ッ」

「!」

 アヤノは飛来する蜘蛛を反射的に斬り払った。軌道がそれて床に落ちたので、それをさらに突きに行く。

 横からショウのナイフも飛んだ。それが大きく蜘蛛のHPを削り、その直後、アヤノの一太刀がとどめになった。


魔法マギア:スピサ!』


 続けざまのショウの単体攻撃魔法。一般のフィールドと違って弱めのものを主体にしているらしい。それに気がつきなぜだろうと思いかけた時、ダンテが宝剣を掲げた。


魔法マギア:プリミ――』


「ダンテ、ストップ!!」


 ショウがほとんど怒鳴るように叫んだ。ダンテが狙っていただろうコウモリに代わりとばかりナイフを放ってから、ダンテとユーリを順に一瞥する。

「広域攻撃は控えて! 狭い場所では視界をふさがれる!」

「っ」

 一度宝剣を下ろしかけたダンテは、またすぐに視線を鋭くした。


魔法マギア:アンベロス!』


 ザッと伸びたツタが壁の近くのコウモリを絡め取った。拘束している間は魔法攻撃も封じられる。チャンスだ。

 アヤノは跳んで、連続で斬りつけた。

 数字が踊る。途中でアルも加わってコウモリにとどめを刺す。

 同時に背後でトカゲの断末魔が聞こえた。ふり返るとショウが間髪入れず最後の蜘蛛を叩き斬った。そこでやっとひと息つくことができた。

「ねぇ、ここでも“紋章クレスト”は取りに行くんでしょ? まだ先が長そうねぇ」

「13ステージを開くためだからね」

「敵もだけど、迷路ってのもな。オレこういうのあんま得意じゃねーんだよ」

 アルの情けない表情に、ユーリがふんと鼻を鳴らした。

「誰もあんたなんかに期待してないわよ。仕方ないから私がルートを探してあげる。感謝して待ってなさい」

「っ」

 返答がないのでアヤノはアルを窺い見た。怒るのかと思いきや、アルは眉を寄せて黙ってしまう。

 どうも、しょげているようだった。意外な反応だ。

「それじゃあここから先、偵察してみるわ。ちょっと待っててちょうだいね」

 ユーリがグライアイを召還し、ルートの先に放った。アヤノも地図を確認してみる。が、やはりこの狭い範囲の表示では、どの道がどう繋がっているのかよくわからない。

「とりあえず出したからぁ、ちょっとくらい時間くれるわよね?」

 面倒くさそうに言いながら、ユーリが手近の壁によりかかり――

「あっ!」

 ショウが声を上げて手を伸ばした。


「えっ――」


「! ショウ!!」


 アルがあわてて駆け寄った時には、2人の姿は消えていた。

 正確には“見えなくなった”。ユーリの寄りかかった壁がぐるりと回転し、ショウもろとも向こう側へ押しやってしまったのだ。

「なんだこりゃ、忍者屋敷かよ!」

「――ショウ。聞こえるか」

『大丈夫、聞こえてるよ』

 冷静に声を張り上げたのはダンテで、壁の向こうからショウが答えた。

『さっき説明し損ねたんだけど、この迷宮にはこの手の仕掛けがランダムに置かれてるんだ。しかも壁が動くのは一箇所につき一回だけ。すぐに合流するのは難しいと思う』

「だからさっき、『壁に触るな』って」

 戦闘開始の直前に耳をかすめたのを思い出す。あの時は聞き流したが、つまりこういうことか。

『仕方ない……今回は、“紋章クレスト”はあきらめよう。安全確保が最優先、合流するまでは、敵が手に余ると思ったら逃げる方向で』

 オラクルエリアは一度入ってしまうと簡単には出られない。ボスを倒すか、ゲームオーバーになるかだ。アヤノ達はわざとゲームオーバーというわけにいかないので、必然、ボスを目指すしかないということになる。

『絶対に、無理はしないで! なんとかしてできるだけ早く見つけに行くから!』

 それを最後に、壁の向こうで微かな足音が遠ざかっていった。そして、ダンテがきびすを返す。

「俺達も行こう」

「行くったって、どっちに行きゃいいんだよ?」

「アルテミスの紋章クレストを使ってみよう。少しは目処をつけられるかもしれない」

「待って。最初はわたしが」

 アヤノはとっさに申し出た。ダンテの方が“テオス・クレイス”に慣れているはずで、できるだけ温存してもらった方が良いのではないかと思う。特に根拠があるわけでもなかったが、ふり向いたダンテは、微妙に口角を上げてうなずいた。

「では、たのもう」


『――“紋章クレスト”:キパリシー』


 緑色の光が螺旋のように立ち上がり、木の葉の形にぱっと広がった。急いで地図を開けば確かに読める範囲が大きくなって、一箇所、進めそうな道がある。

「ショウ達の表示も見えた。すぐ消えたけど」

「ともかく進んでみよう」

「お、おう……」

 ショウを欠いて3人で。アヤノがログアウトできなくなって以来初めてのことだが、不安はあっても、行くしかなかった。



            * * * * *



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