ディスリスペクト -3-
“テオス・クレイス”に戻ってきたダンテは、無表情のまま眉根を寄せた。黒い視線の先にいるのは、ユーリだ。
「やはり連れて行くのか」
「うん」
「……ショウ」
「言いたいことはわかるつもりだよ。だけど」
「ユリウスの行動は勝手が過ぎる。俺は反対だ」
もちろんユーリも近くにいるのだが、ダンテははっきり言い切った。その後に腕を組み重々しいため息をつく。
「しかし、お前の立場ではそうも言っていられないのだろう。それは理解する」
「うん。助かるよ」
と、そのそばでユーリがツンとそっぽを向いた。ひとりごとのようなつぶやきはあからさまに喧嘩腰だ。
「なんだかねぇ。かぁんじ悪ぅ」
「お前の言えたことか」
「なによぉ、先につっかかってきたのはそっちでしょぉ?」
ダンテとユーリがにらみ合い、険悪な空気が漂いだす。そこへショウが「まあまあ」と恐れげなく割り込んだ。
「状況が状況なんだから争ってても仕方ない。2人ともわかってるとは思うけど」
「……ああ」
「私は別にどうでもいいんだけどぉ? そっちに合わせてあげてるだけなんだから」
「お前」
ダンテの表情が暗くなる。その目の前を、さっとショウの手が遮った。
「ダンテ」
「……。わかっている」
「それじゃあ先に進もう。ユーリ、オラクルエリアまで、誘導してくれるよね?」
「……っ、しょうがないわね」
若干怯んだ様子を見せ、渋々という体でユーリがうなずく。やりこめられたせいかショウには苦手意識を持っているらしい。この調子なら、ショウがいる限り単独で突っ走ったりはしないだろう。
しかしなんとなく、何か違うんじゃないかという思いがアヤノにはあった。
「ダンテはこのステージは初めてだっけ。今回でいきなり“オラクル”まではいけないかもね。道筋だけ確認できれば収穫ってところかな?」
例によってショウを先頭に、再びバトルフィールドに出た。今度はしばらく進んでもなかなか敵が出てこない。遭遇は確率によるというからこういうこともあるのだろう。が、なんとなし逆に落ち着かない気分になっていると、気がついたらしいアルに笑われた。
「意外と好戦的なんだよなー。リアルでもそんな風につっこんでくタイプか? 怖そうだよなー」
「……」
「? アヤ?」
「なんでもない」
少し、というかかなり、嫌な気分になっていた。
聞きたくない。その話は。なんとなくではあるけれど。
「お、おいなんだよ、怒るなよ」
「怒ってない」
「2人ともどうかした?」
アルのあわてた様子にショウが下がってきた。アヤノは「なんでもない」と首を振るが、アルが何やら妙に凹んだようだった。ショウが首をかしげて一言二言とささやきかける。アルも何か短く返し、ぶんぶんと頭を振った。
「あらぁ。やっとおでましね?」
その時、ユーリがのんびりと錫杖を立てた。
敵が出現する。今度はトカゲと、蜘蛛が2体。蜘蛛は第2ステージのボスほどではないものの、やっぱりぎょっとするような大きさだ。
横手に剣を構えたアヤノはトカゲを狙い飛び出した。あれとの戦い方ならもう知っている。そうして突きの構えに入った視界の端、ダンテがショウに耳打ちする様子をちらりと捉えた。
『魔法:アンベロス!』
直後、ダンテの聞き慣れない呪文を聞いた。刃を突き立ててダメージを与え、飛び退いたと同時に視線を投げる。
片方の蜘蛛にツタが巻きついていた。ツタは壁の隙間から生えている。これが魔法なのだろうか。
「アヤ!!」
ショウの叫びに身を伏せた。その頭上を白いものが鞭のように薙いでいく。あれは、蜘蛛の糸だ。
「攻撃パターンは第2ボスと似てるよ、踏みつぶしもあるから気をつけて!」
「あっ」
言ったそばから蜘蛛が跳んだ。ドンッと音を立てて地面に下りる。幸い当たり判定はなし、しかもちょうど攻撃をかけるのにいい距離感だ――と思ったが、斬りかかろうとすると蜘蛛は糸を吐き、その上を滑るように向こうの壁へと跳んだ。
「攻撃当てにくい……」
「コツつかむのがちーっと難しいよな」
「基本は今までと同じだよ。見極めて、攻撃を避けつつ隙をつく!」
ツタが捕らえる蜘蛛にアルが撃ち込んでいる。アヤノはその時ふと思い立ち、銃声に負けないように叫んだ。
「どんな敵でも、どこかに必ず隙がある、ってこと!」
「――正解!」
返ってきた声にアヤノはうなずく。それならやれるはずだ。ショウの言うように。これまでと同じように。
『魔法:ニネミア!』
ユーリが自分の周囲に半球状の壁を築いた。と同時に火球が飛んだ。火は壁に当たると吸い込まれるように消えたが、逸れたひとつがアヤノに向かってきた。
『紋章:クリノス!!』
とっさの詠唱で火球をはじき返し、百合の盾が消えるか消えないかのうちにジャンプする。
狙うは蜘蛛の糸。壁に飛びつこうとする寸前、そのための糸を切り払った。




