ディスリスペクト -2-
フィールドの道幅は思ったよりも広かった。たぶん、森の中の道よりもいくらかましだ。その代わり登れないよとショウに言われ、試しに垂直の壁を駆け上がろうとして、見事に足を滑らせた。
「痛った……」
したたかにしりもちをつき思わずうめいていると、アルとショウが両側から手を差しだしてくれた。
「なーにやってんだお前は」
「だから言ったのに。大丈夫――」
手を握ったところで、ショウがふと笑みを消した。
「アヤ、今なんて?」
「腰打った」
「ったく、しっかりしろよ」
「そうね。しっかりしてちょうだい」
ずっとむっつり黙っていたユーリがようやく口を開いた。しかし声音は低く、少しの緊張を帯びていた。
「敵が近いわ」
「アヤ」
ぐいと引き上げられ、手が離れると同時にアヤノも剣を抜いた。
黒い陽炎が立つ。形をとる。
現れたのは、アヤノが腕を広げたほども体長のあるトカゲが2匹。まっ黒な頭からちろりと舌が伸び、カッと赤い口を開いた。
「回避!」
ショウの声を待たず全員が動いた。吐き出された炎のような球体が次々と飛んで壁を焦がす。ひとしきり吐き出すとトカゲは壁を走り、不意に止まって尾を上げた。
「!」
アヤノは反射的に剣を振り下ろした。しかし「カンッ」と音を立てて刃を弾かれる。尾が予想外に硬いようだ。
まだ何か、攻撃を通すために必要な条件があるのか。
「トカゲの炎は魔法攻撃だから、アヤは気をつけて!」
ショウに言われはっとして跳び下がった。アヤノの魔法耐性は低い。攻撃力、体力にすべての数値を割り振っているせいだ。唯一の指輪で強化はしているが、他の3人とは比べものにならないという自覚はある。
足手まといにはなりたくない。
『魔法:エクリクシー!』
ショウの攻撃魔法。炎が爆ぜてトカゲの1体を焼きもう1体の足をかすめた。
直撃した方が地面に落ち、動きが止まる。すかさずユーリが杖を上げた。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
蛇の攻撃でさらにダメージが飛んだところへアルが撃ち込む。その間にショウはもう1体にナイフを投げた。アヤノもそちらに向かい、片手で剣を突き出た。
届いた。トカゲが鋭く啼いて地面に落ちる。これはつまり、『斬る』よりも『突く』が有効なのか。
そして、たぶん地面に落ちた時が攻撃チャンスだ。
「アヤ」
「ん!」
ショウと2人がかりでダメージを与え、尾を振り上げたところで離脱する。
トカゲはするすると動いて壁を上り、再び大きく口を開いた。
「お、っら!!」
続けざまの銃声。アルの攻撃で2体目が消える。するとショウが、安心したように息を吐いた。
「やっぱり防御魔法があるとないとじゃ、気分的に大違いだなぁ」
「ダンテ?」
「うん。このパーティでそれ持ってるのはダンテだけ――いや、ユーリもだけど」
「あらーよく気付いたわね」
そういえば。戦闘中にそんな場面が視界の端をかすめた気がしないでもない。それを肯定するように、ユーリが軽く顎を反らせて鼻を鳴らした。そしてショウはそこへ綺麗な作り笑いを返す。
「君は自分を守るときにしか使わないみたいだからね。広域防御を持ってるかどうかってところでも、ダンテとの違いは歴然だよね」
この発言はさすがにカチンときたらしく、ユーリの眉が跳ね上がった。
「なぁにぃ、私の方が劣ってるみたいな言い方してくれちゃってぇ」
「うん? そんなことは言ってないよ?」
「……ま、別にいいけどぉ」
「アヤ、アル」
無視するような形でふり返ったショウは、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「悪いんだけど、もう1戦くらいやったら1度戻ってもいいかな」
「したらダンテを待つってんだろ。りょーかい」
先にアルが答えてしまったのでアヤノはただうなずいた。ダンテもいっしょに行くのだから、できるなら戦うのもいっしょがいい。
そう思っているうちに向こうの方でまた陽炎が揺らめき始めた。
アヤノ以外の3人にはまだまだ余裕があるようだが、危険はいつだってどこに転がっているかわからない。他の方向にも注意しながら、アヤノは剣をかざした。
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