ディスリスペクト -1-
「――お、ショウ。なんの連絡だった?」
「ああ……うん。途中で横槍入っちゃって。また改めて」
「そりゃ災難だな。行ったり来たりって疲れんだろ」
「それは、大丈夫なんだけど。……何やってるの3人とも」
ショウがなんとも微妙な顔で言うのをアルが笑う。
ちょうど、アルとアヤノは殴り合いの体で腕を交差させたところだった。ちなみにユーリは少し離れたところでしゃがみ込み、自分の膝に頬杖をついている。アヤノ達をむっつりと眺めていたのが、今はショウに視線だけ向けていた。
「見りゃわかんだろ。訓練だ!」
「うんごめんわかってた。前もそうだったね。相変わらずだねアルは」
つられたように苦笑したショウは、ふと力を抜いたように見えた。何かあったかと口を開きかけるが、やめた。その口調やそぶりから、聞かないでほしいと言われている気がした。
「退屈なのはわかるよ。僕も相手しようか?」
「ねぇーえー、それだとこっちは退屈すぎて死にそうなんですけどぉー?」
口を尖らせながらユーリが立ち上がった。それはもう不機嫌そうに半眼で睨みつけるが、もちろんそんなことでショウは動じない。
「仕方ないな。ダンテには連絡しておいて、先に第4ステージに向かおうか?」
「まだその方が気が紛れそうね」
「お」
アルが小さく声を上げた。嬉しそうに見えるから、やっぱりその方がいいと思っているのだろう。
「アルとユーリは鍵4つみたいだけど、どの辺まで?」
「オレは2、3回フィールドに出たくらいだ」
「私は“オラクル”手前まで行ったわよ。けどねぇ。あのステージったらあれだから」
「うん……あれだね」
「アレ?」
「あー。あれだな」
経験者達の共感にアヤノは入っていけない。それで眉をひそめていると、ショウの青い眼がこちらを見る。
「ちょっとね。独特なステージなんだよ」
「ま、行ってみりゃわかるって」
アルは半分苦笑いだ。不得要領のままうなずくと、ショウが手招きしながら、もう片方の手で鮮やかなオレンジの石の鍵を取った。
「行こう」
第4ステージへ。飛ぶ。
慣れた調子で光が消えてから目を開く。ふり返れば“はじまりの扉”と、先に着いていたショウの姿。後からすぐにアルとユーリが現れた。
それを確認してからぐるりと見回し、改めてショウに向き直る。
「……。そういう」
「な」
「そう。こういうところ」
背の高い壁。焼いたままの煉瓦のオレンジ。第3ステージで見た森のように、見渡す限り壁が連なっている。まるで――
「第4ステージは“迷宮”のステージ。バトルフィールド自体も迷路になってる。まずは神殿にたどりつく道を探さなきゃならないんだ」
納得した。“オラクル”に行くにもそれなりに時間がかかりそうだ。さっきしみじみと言っていたのはこれか。
「地図は、やっぱり」
「表示される範囲は限られてる。アルテミスの“紋章”に索敵範囲を広げる効果はあるけど、制限時間がそんなに長くない」
「そんでオレも手こずったんだよなー」
「だけど。今の僕達には奥の手がある」
視線が動きユーリを捉えた。それに気付いたユーリがぱちりと瞬き、思いきり顔をしかめる。
「私ぃ?」
「そう。君だ」
「ちょっとぉ勝手なこと言ってくれるじゃなぁい!?」
「君の持ってる“グライアイ”、このステージにはぴったりだよね? それに、オラクルエリア手前まで1度は行ってるんだよね? ……たよりにしてる」
「んもう、ひとのこと使い倒す気満々な顔しちゃってぇ!」
などと言いつつ、そろそろあきらめが勝ってきたのかもしれない。いやそうではあるが拒否する気はない様子で、手慰みのように錫杖を揺らす。
「しょうがないわねぇ、まったく!」
「ありがとう」
「どういたしましてッ!」
「……まだ、ダンテが来るまで時間がある」
ふと独り言のようにつぶやいて、ショウは何か考えるそぶりをした。それからまた目を上げる。
表情は笑顔のようだ。ただ、無理をしているように見えなくもなかった。
「どうする? 一応4人いるし、さっそく少しだけ出てみる?」
反対はなかった。「やっぱり」と言いたげに、ショウはセーフティエリアの外を見やった。
「この近くで、少しだけね」
「よっし!」
「危なくなったらすぐに戻るよ?」
ショウが言い終える前に、アルが足早に歩き出していた。アヤノもすぐに後を追う。ちらりと見返れば、ショウはユーリが仕方なさそうに動き出してからその横をついてきた。
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