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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第4ステージ:迷宮
52/200

システム -3-


 到着はほぼ同時だった。アヤノと目を合わせたショウは、まっ先にアヤノに向かって言った。


「リアルでのアヤのこと、もうすぐわかりそうだよ」


 突然の一言にアヤノは黙ったまま瞬いた。と、ショウが複雑そうに苦笑した。

「嬉しかったりはしないんだ?」

「よく、わからない」

「覚えてないんだから仕方ない、のかな……? とにかく、近々本物の君に会いに行くよ。行くのは僕じゃないだろうけど」

「……。そう」

 もしかして、ショウの実物と会える可能性があるということなのだろうか。それなら会ってみたいような気もしたが、どのみち意識がこちらにある以上、向こうの自分はショウを認識できないのかもしれない。

 ぼんやりと考えている間にショウがついと視線を巡らせた。その顔が怪訝そうに曇り、何か言いかけたところへ、アルが“はじまりの扉”の向こう側を示す。

「ダンテなら戻ったぜ。ユーリはそっちにいる」

「ああ。ありがとう」

 ショウがほっとした様子で近づいていくと、そっぽを向きつつ一応まだそこにいたユーリは、ショウに目線だけ向けて細い眉をひそめた。

「やぁっと来たわね。これでもう解放してもらえるのかしら?」

「いや、それは」

「あなたが戻ってくるまでって言ったじゃないの。それともこのまま拘束されるわけ? うんざりなんですけど?」

「……ユーリ、ほんとに平気そう? わたしと違って記憶、ありそうなのに」

 アヤノは誰にともなくつぶやいた。するとアルが呆れたように肩をすくめる。

「どーだかなぁ。ぶっちゃけオレも、最初はけっこうビビったけど、今はもう仕方ねっーってか……なるようにしかならねーよなって気分になってきてんよ」

「そっか」

 こっそり話す2人をよそに、ユーリはなおショウに噛みついた。

「もういいでしょ、1人にしてよ! 邪魔しないでよ! あんたになんの権限があるっていうのよ!」

「――規約」

 小さく、しかしはっきりと、ショウが答えた。

「権限を行使しようと思ったら、できるよ。運営側にはプレイヤーの安全を確保する義務があって、同時に、緊急時はプレイヤーを誘導、指導できることになってる」

 はっとしたように目を見開いたユーリが、次いで唇を噛んだ。

 そしてショウはといえば、それを見て何やら目を細くした。

「そういえば、そうだったわ……」

「でもね。そういうのの強制、僕はあんまり好きじゃないんだ」

「は?」

「プレイヤーにはできるだけ自由に行動してほしい。ただ、こっちも好きにさせてもらうよ。この件が片づくまで、僕は君についていく。何があろうとね」

 ショウの口元に笑みが浮かんでいる。半ば脅迫するような表情に見えたのは、アヤノだけではないようだった。

「そういうわけで、ひたすらつきまとわれるのと、協力して一緒にやるのとだったら、どっちがいい?」

「ど、どっちにしろ強制みたいなもんじゃないのぉ!」

 小さく地団駄を踏みつつヒステリックに叫んだユーリは、急にがくりとうなだれた。

「わかった……わかったわよ……好きにしてちょうだいよもう……」

「うん。ありがとう」

「ありがとうってなによぉ」

 アヤノはそっと息を吐いた。安心した。危険かもしれないとわかっているのに、ひとりだけ放り出すのは気が引ける。

「連れてくのか……ま、しゃーねーけど」

 ぼそっとつぶやいたアルも、様子を見る限り似たようなことを考えているのだろう。

 ――よかった。素直にそう思った。

「それじゃユーリ。まずはちょっと聞いてくれるかな」

 ユーリは黙っているだけだったが、ショウは確認するように間をとってから、自分達が第13ステージを目指していること、そうすれば強制ログアウトシステムを利用して現実世界へ帰れるかもしれないことを説明した。

 少しずつ、ユーリがショウの方を見る時間が長くなっていった。やっぱり、どうでもいいと思っているわけがないのだ。

「ふうん。言ってた『方法』がそれね。だから“紋章クレスト”収集してるわけ」

「他にもっと安全な方法があればそっちを取るんだけどね。今のところ、何も」

「で? 私もそれにつき合えばいいのかしら?」

 ユーリも落ち着いてきたようだ。演技がかった仕草で肩をすくめ、軽くショウを睨みつける。

「おっけ……面倒だけど、仕方なさそうね」

「賛同してくれて嬉しいよ。じゃあダンテが戻り次第、さっそく第5ステージに――」

 そこでふとショウの視線が動いて、アヤノも辺りを見回した。周りには他のプレイヤーがいる。それ自体は不思議なことではないが、どうも遠巻きにこちらを窺っているようだ。


 ――あれが噂の

 ――近づいちゃいけないって

 ――あの人? 誰?


 ――掲示板。見てごらんよ――


「ショウ。なんか」

「妙な反応だね。掲示板に何か書かれたかな」

 掲示板。アヤノもこれは覚えている。大勢に向けて何か情報を伝えたいときに使う書き込み場所だ。まだ自分で書き込んだことはないが、ほんの何回かのぞいたことならある。内容としては、どこそこのエリアでレアアイテムがドロップしたとか、武器の使用感だとかがあったと記憶している。


「……なんだよ、これ」


 ショウが画面を開いた横で、いっしょになってのぞき込んだアルが思いきり眉根を寄せた。

「なんだこれ。オレ達のことかよ?」

「どうしたの」

 アヤノも自分の画面を開いた。

 まず目に飛び込んできたのは、ショウの名前だった。


『 ショウとそのパーティに気をつけろ。


  “ファントム”と、関わりがあるらしい 』




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