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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第4ステージ:迷宮
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システム -2-


 戻ってくると、カーテンの隙間から差月明かりの角度がだいぶ変わっていた。

 ヘッドセットをはずし頭を振ると、見計らったようにコール音が鳴った。拾い上げようとして端末を落とす。指が震えてうまく力を伝達できなかったらしい。意識を現実に戻した直後だったことと、疲労のせいだろう。

 小さく舌打ちして端末を拾い直した。通話口から聞こえたのは、上司でもある叔父の声。

「どう?」

『ああ――実はな、“アヤノ”の身元がわかった』

「えっ」

『あくまで身元だけだがな。これから実際の様子を見にいくことになってる。いつ誰が行くかは、上からの指示待ちだ』

「そう。わかった」

『ま、お前はこのままお目付け役だろう。引き続きたのむ』

「……おじさん。3人目が」

『うん?』

「登録名ユリウス。戻れなくなった。これで3人目」

『そっ……』

「それに、バグ――かどうかもわからない、妙な現象が起きてる。もう無理だ、手に負えないよ」

『ショウ、待て。落ち着け』

「おじさんも落ち着いて」

 互いにしばらく沈黙した。しかし、どうにか気を取り直す。

「おじさんから、本社に報告してくれないか」

『……。わかった、とりあえず上げておく』

「お願い」

『じゃあ切るぞ』

「結果の連絡くれる?」

『ああ』

「待ってる」

 通話が切れ、深くため息をついた。さすがにしんどい。このところの寝不足がたたったのか今にも倒れそうだ。

 少し眠っていこうと決めた。ほんの少しだけ。アヤノ達には悪いが、そうでもしないと身がもたない。

「目覚まし、かけないと」

 手を伸ばして時計に触れるなり、急に目の前が暗くなった。


 ――すぐ……戻るから……


 寸前で無意識につぶやいた。その直後、コトリと意識が闇に落ちた。



            * * * * *



 ユーリはひとり離れ、ぶすっとした顔でたたずんでいた。人当たりの良さそうだったさっきまでが嘘のようだ。たぶん、こっちが素なのだろうが。

 空気が重い。ユーリが帰れなくなったことも、オラクルでの裏切りも、同じようにショッキングだった。アルもダンテも口をきかない。だからアヤノも黙っていたが、そろそろ、飽きてきた。

「ユーリ」

 白装束に歩み寄ってみる。しかしユーリも気が立っているようで、まずは思いきり睨まれた。

「何よ」

「大丈夫?」

「別に平気よ。なんなの、泣くとでも思った?」

「なら、良かった。……でも」

 まだショウが戻ってくる気配はないので、ユーリの現実世界での話を聞いてみることにした。ショウはアヤノにもアルにも繰り返し尋ねてきたから、対処の一環なのではないかと思う。

 それと、個人的にもユーリのことが気になる。

「でも? なに?」

「どうして怒ったの。もしかして……人といっしょにやるの、キライ?」

 細い眉が神経質に跳ね上がった。

「だったら何よ」

「いっしょだね」

「はぁ?」

「わたしも最初、ひとりでやってたから」

 ショウに会う前の自分とユーリが重なるような気がした。最初から気になっていたのはそのせいもあるかもしれない。もちろん、理由やら事情やらが完全に一致するわけではないのだろうけど。

「仲間なんていらない、ひとりでやりたいって思ってた。でも今は、ショウのことは信用してる。信用できると、思う」

 言葉を切り、反応を窺ってみる。ユーリは眉をひそめ、ふいと横を向いた。

「だから私にも信用しろって?」

「無理?」

「あなたには関係ないでしょ。ほっといてよ」

「……ふうん……?」

「おい、アヤ」

 アルに呼ばれてユーリから離れる。戻った先のアルもダンテも渋い表情だ。完全にユーリとは距離を置きたいような雰囲気だった。なんとなく、アヤノは違う話を振ることにした。

「ショウ、戻ってこないね」

「そうだな」

「てかダンテ、お前そろそろ時間じゃねーの。戻らなくていいのかよ」

 ダンテがためらいがちにうなずき、「それなら帰れ」とアルが背を押す。

「大丈夫だ。神殿ここは安全だってショウも言ってただろ」

 しばらくの沈黙を経て、ダンテは半ばうめくようなため息を吐いた。

「やむをえんな……体が空き次第また来る」

「おー」

 ダンテが消えた。するとそこへ、入れ替わるようにショウからのメッセージが届いた。神殿を出て第3ステージの『扉』へ戻るようにとの指示だった。




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