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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
49/200

オラクル Ver. アルテミス -7-


「後半は4人で充分だったわねぇ。ホントたよりになるわぁ、あなた達って」

「……お前」

 ダンテが声を低めた。怒りの感じられる声だ。睨まれたユーリが「あら怖い」と口元を押さえる。

「いやぁねぇ怒らないで。だって途中で魔力ゲージがなくなっちゃったんだもの。だから少しの間だけ隠れさせてもらっただけなのにぃ」

「そのような戯れ言にごまかされると思うか。それが事実であれば最後の魔法も使えまい」

「魔力は時間経過で回復するもの。あなた術士なら知ってるでしょぉ?」

「……」

「やだもう、疑ってるのぉ? ……ショウ君まで?」

「ユーリ」

 ショウの表情が固い。アヤノもさすがにいい気はしなかった。どこにいたのかわからないが、戦闘中に一言もなく姿を消して、終了間際に戻ってきて。なんのためにとわざわざ聞かなくても、ユーリの笑顔を見ると、ただ楽をして“オラクル”をクリアしたかったのだろうかと思ってしまう。

 これではこの先、協力して戦うことはできそうにない。

「いつもこんなことをしているの」

「こんなってどういうことよぉ」

「ユーリ。ひとつ聞かせてほしい。この後も、ボク達と来るつもりはあるの?」

 アヤノはショウを、そしてまだ笑っているユーリを見比べる。

 するとユーリはわざとらしく肩をすくめた。

「なんだか嫌われちゃったみたいだし、ここでお別れでも私は構わないわ。思いがけずアルテミスの“紋章クレスト”も手に入ったわけだし」

 そう言ったときには猫をかぶるのをやめたらしい。気怠いようなバカにしたような、少し寒気のする表情でショウを見返す。

「なんだか強そうだったから試しに乗ってみたけど、あなた意外におかたくてつまらないわ。――お互いこれだと、同じパーティのままでいるっていうのも、ねぇ?」

「……わかった」

 アヤノはこっそりとため息をつく。結論は出た。


「残念だけど。“紋章クレスト”を受け取るまでだね」


 ダンテが眉根を寄せ、アルはそっぽを向いてため息をついた。それからは無言で神殿への帰途につく。すでに現れていた乳白色の扉へ。

 それに揃って触れようとした――寸前。

「!」

 ショウがぴくりと手を止め、ふり返った。

 そしてさっと青ざめる。


「よけろ!!」


「え? なに」

 アヤノ達3人は察して飛び退いた。しかし事情を知らないユーリだけはきょとんとその場に立ったまま。

 ザリザリザリ、と背後で不穏な音がしたことに気がついたかどうか。

「ユーリ!!」

 ユーリがふり向くよりも早く、モザイクの固まりが立ち上がり槍状に突き出た。


「……あ……?」


 白い法衣が背中から貫かれた。ユーリが目を見開き、軽くのけぞる。

 その体が色を失いモノクロになり。

 テレビ画面が消えるように、パチリと消えた。


魔法マギア:アフティダ!!』


 ショウが最大威力の攻撃魔法をたたきつけ、モザイクは光に呑まれて消失した。同時に、ほとんど怒鳴るような声を上げる。

「マップ内を捜そう! ダンテとアルは東側、僕とアヤで西側を回る。何かあったらすぐに連絡を!」



            * * * * *



 4人は敵のいないオラクルエリア内の森をくまなく捜した。しかしユーリの姿はなかった。

 予想できたことだ。最初から画面に他プレイヤーの反応はなかった。それでも確認しないわけにはいかなかった。これまでの経緯から、何が起きてもおかしくない。むしろ今回は、“何か”起きていてほしかったのだが。

 そう都合良くはいかないらしい。

「……くそ……っ」

 合流したところで、ショウが珍しく悪態をついた。アヤノとアルが何も言えないでいるとダンテがショウの肩をたたいた。

「通常のフィールドに戻っている可能性もゼロではない。まずは紋章クレストを受け取り、第1から第3ステージまでを総攫いする。それからだ」

「――ありがとう」

 重苦しい空気をまとわりつかせたまま今度こそアルテミスの神殿に戻る。

 白い神殿の女神は何があっても変わらない。プログラムだからとわかっていても、涼しげな表情には割り切れないものを感じてしまう。


『よくぞ憂いを晴らしてくれました。


 約束の通り報賞を授けます』


 ぽん、と耳慣れた電子音。これで“紋章クレスト”の受け取りが完了したはず――


「なるほどぉ、これが噂の“紋章クレスト”ってわけねぇ」


 一瞬で全員が驚愕の表情になった。視線が集中した先で、見られた方も大きく目を見開いた。

「な、なによ。そんなコワい顔しちゃって」

「……なんで?」

 アヤノはつぶやいた。

 目の前には、先ほど襲われて消えたはずのユーリがいた。




第3章 了

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