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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
42/200

バグ -3-


「えぇー? せっかく来たのにもう行っちゃうのぉ?」

 甘え声ですり寄ろうとしたユーリをさりげなくよけ、何もなかったかのように、ショウが手を振った。

「それじゃあ、また後で」

「おー」

「後で」

 ショウが姿を消した。と同時に、急にユーリの様子が豹変した。

 にこにこと笑っていたのが、妙にけだるげな様子で白銀の髪を掻き上げて舌打ちをする。

「んもう。意外とお堅いんだから」

「……ユーリ?」

 アヤノが目を見開くと、妖艶な笑みを返された。

「なあに、アヤちゃん。どうしてそんなにびっくりしてるの?」

「うっわーお前、ネコかぶってやがったのか」

「楽しいこと言うじゃない。誰が言ったのかしら、これまで見せてた私が本当の私だなんて」

 顔をしかめたアルにはウインクを投げ、楽しげに笑う。

「知らないの? オンナはみんな女優なんだから」

「お前男じゃねーの!?」

「あらやだ。そんなこと言ってないじゃないの。第一そんなの大した問題じゃないでしょ、ア・ル・ちゃん?」

「……うわ」

 アルが首をすくめて3歩下がった。その気持ちはなんとなくわかる。ユーリの纏う雰囲気には毒があるのだ。女性的な香りを感じさせる、甘い毒。

 しかしアヤノは、口元を隠してくつくつと喉を鳴らすユーリに向かい、口を開いた。


「でもユーリ。それって、『今』のユーリも本当じゃないかも……ってこと?」


 ユーリは「あら」と目を細めた。

「アヤちゃんはそこそこ鋭いわね。賢い女の子って素敵」

「なんだそりゃ。ややこしいな」

「あのねぇ。私のことばかり言うけど、大概の人間は多少なりと人前で演技をするものでしょ。アルちゃん、あなただって今、まったく演技してないってことないんじゃない?」

「!」

 アルが詰まった。それがかなり意外だった。アルのことはずっと、裏表がなくて子供みたいな性格だと思っていた。

「ね、だからこの話はこれでおしまい。ところで2人は何するところ? 第3ステージのメンテ終わったんでしょ? 戻らないの?」

 アヤノはアルと視線を交わす。ユーリには、2人が現実世界へ帰れないということをまだ知らせていない。だから、あまり軽々しく行動できないということをどう言えばいいだろう。どう答えるのが正解だろう。

 その間を不自然に感じたらしいユーリが意味ありげに笑んだ。

「やぁだ、いやらし。特に決めてない感じね? じゃあショウ君もいないことだし、1度戻っちゃおうかしら」

「戻るの?」

「お前って、けっこうマジメにショウが目当てなのな……」

「だぁっていい男なんだもの。まぁとにかく、私は戻ることにするわ。じゃあねぇ2人とも」

 手を振られたので振り返すと、ユーリはそのまま消えた。するとアルが寄ってきてささやいた。

「かえってよかったかもな」

「かもね」

「オレもお前も、ショウみてーにうまく誤魔化しながらしゃべれねーからな」

「うん。ていうか、どうしてユーリには言わなかったのかな」

「軽そうだからじゃん?」

「……かな?」

 ユーリには悪いが否定できなかった。ダンテの時は出会い方が出会い方だったのでショウも早々に「信用できる」と踏んだのだろうけど。

 それに、協力者がほしいのはこちらの都合だ。簡単に巻き込めないというのもありそうな気がする。

「まーた暇になっちまったな。どうする?」

「ん――」

「!」

 突然、アルが血相を変えて銃に手をかけた。つられてぱっとふり返ったアヤノは、ざらりとしたモノクロを視界に捉えた。

「!?」

「アヤ、今……見えたよな?」

 アルの固い声がした時には、もはや見慣れたあのモザイクは消えていた。しかし『最初からなかった』とはとても思えない。アルも同じものを見たようだし。

「敵キャラのバグだと思ってたけど、違うのか? ここ、セーフティエリアだよな?」

「……。うん」

「敵が発生しないはずの領域で、なんで……」

 きつく眉根を寄せたアルは、すぐにぶんぶんと赤い頭を振った。アヤノも周囲の様子を確認してから戦闘態勢を解く。近くに数人いた他のプレイヤー達は、モザイクに気づいた様子はなかった。

「ショウに知らせた方が、いいかな」

「いや。次また出たらにしようぜ。まだショウが落ちてからそんなに経ってない」

「わかった」

「警戒しつつの待機時間か。めんどくせーな……」

 ぶつぶつ言いつつ頭を掻くアル。アヤノは念のため、腰の長剣を手にした。




第3章2節 了

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