バグ -2-
『プレイヤーの皆様にお知らせです。
第3ステージにおいて、発生したモンスター数と表示が合わないバグが発生している
との報告がありました。
これよりメンテナンスに入ります。
現在第3ステージでプレイ中の皆様は、速やかに他ステージへ移動いただくか
一度ログアウトしていただくようお願いします。
ご不便をおかけしてまことに申し訳ございません。
運営』
「あれ、これってさっきのバグじゃね?」
「そうだね。他でも、起きてたのか」
ショウの目が細まった。そしてすぐに頭を振る。何を思ったか察したアヤノは、ショウの脚を軽く蹴った。
「ちょ、アヤ、また」
「なんでもかんでも、気にしなくていいと思うんだけど」
そっぽを向きながらそう言って横目にうかがうと、ショウが微かに苦笑した。
「いや……気にしてっていうか」
「なんだよアヤ、先に言うなよなー」
アルが偉そうに腰に手を当てた。低い位置から軽くショウを睨み上げる。
「ひとりで全部の問題に対処するなんて無理だろ? 第一そういうのって、本当にお前の仕事なのか? とにかくあんま根詰めすぎんなよ」
「うん。そうだね。ありがとう2人とも」
「ちょい待て、それダメだ。適当に聞き流すときの顔じゃねーか」
「とりあえず第2ステージに戻ろうか。メンテナンスが始められない」
笑顔でアルを遮ると、ショウは先に立って“はじまりの扉”へ向かう。アルがぷっと頬を膨らませ、アヤノはそれを指で押しつぶしてからショウを追った。
ショウにも立場がある。気にするなというのもきっと無理なのだろう。だからアヤノは、心配なのはたぶんアルと一緒でも、ショウを止めるつもりはない。
代わりに自分は、せめて心配をかけないようにしないと。
早くそうなれるように鍛えないといけない。
『ワープ;セカンドステージ!』
『ワープ;フォースステージ』
第3ステージから次々と人が消えていく。
アヤノ達も同じように消えた。――その一瞬。
何人かのプレイヤーが、“影”を見た。影は3人を追うようにして消えた。
そのことをアヤノ達が知るのは、もう少し先の話だ。
* * * * *
運営から再びのメールは、わずか数時間で届いた。内容は『メンテナンス完了』だったが、そうじゃないなとショウは首を振る。
「異常がみつからなかったんだ、たぶん。報告の方がいたずらだったり見間違いだったりすることがあって、そういうときでも言い回しはこうなる。もちろん同じ報告が続いたら改めて調査するよ」
「なるほどなー。まあ何もなかったんならいいじゃん。じゃ、第3ステージ戻るか? それなりに経験値も稼いだし」
「そうだね……」
返答と共に漏れたため息。それを見て大丈夫かと聞こうとしたところへ、横からアルが割り込んできた。
「休憩時間足りてねーんじゃん? 休んできたらどうだよ」
アヤノもうなずく。顔色は変わらなくても、ショウの表情は疲れている。ような気がする。考えてみれば、ダンテや戻れなくなる前のアルと比べて、ショウが休憩のために取った時間は短すぎる。
「いやでも、そういうわけには……」
「ショウ。2人いる。だいじょうぶ」
「ほら、アヤも言ってることだし」
「……だけど……」
急に口調が弱くなった。
その時だった。
「あらぁ、もう、どこに行ったのかと思ったらこんなところにぃ」
甲高い声に3人ともがびくりとした。向こうからユーリが歩いてくる。まだ、連絡のあった時間になっていないというのに。
まるでアルが“幻想症候群”を発症したときのように――
「ユーリ! どうしてここに!?」
「うん? やーねどうしたの、コワい顔。予定がひとつなくなったものだから早めに来てみただけよぉ」
あっけらかんと返されて、ショウはつかの間の沈黙の後、力なく息を吐いた。その背中をアルがどつく。
「落ち着けよ。やっぱ休んできた方がいいって。“こっち”で疲労感が出るのは危険信号ってガイドにも載ってんじゃん」
「それは……、そう、だね……」
とうとうショウも観念したようだった。きっと自覚はあったのだろう。言わなかった――もしくは言えなかっただけで。
「わかったよ。じゃあお言葉に甘えて、休ませてもらおうかな」




