バグ -1-
同行者が1人増えた、のはいいが、ダンテとユーリはすぐにタイムアップで帰っていった。それを見送ってから、ショウもためらいがちに切り出した。
「僕もそろそろ、少し出ないといけない、かな……」
「オレらはだいじょうぶだから行ってこいって! ちゃんと休めよ?」
「ありがとう……悪いけど、僕が戻ってくるまではくれぐれもフィールドに出ないようにね」
「わーかってるって!」
『システム;――ログアウト』
ショウの姿が消え、その途端、アルはため息と共にその場にしゃがみ込んだ。
「アル」
「ちょっと疲れただけだ。なんつーか、気分的に」
「そう」
「アヤはよく平気だよな?」
「たぶん、よく覚えてないから」
「あ、そっか、それはそれで大変だよな……」
しまったという顔をされて少し戸惑う。アヤノはそれほど気にしなかったのに、アルは自分の発言を痛く反省したらしい。
「そんなに大変じゃ、ない、けど」
「いやでも、家族とか心配してんじゃねーの? ――ってそうか、リアルがどうなってるか、まだわかんねーのか」
「家族……アルには弟がいるんだっけ」
「4つ下のなー」
「離れてるんだ。わたしは兄弟……いたのかな」
いた覚えはない。が、そもそも覚えていないだけかもしれない。いたとしたら自分の薄情さに呆れるところだ。
「兄弟いないヤツの方が多いもんな」
「んー……」
「アヤは上がいるかひとりっ子かって感じだけどな、なんとなく」
アルが膝に手を当てて立ち上がった。ふとその向こうを見やると、町はいつの間にかずいぶん閑散としていた。ついさっきまでにぎわっていたショップの周辺にも人影は少なく、店番のNPCが決まり文句をくり返している。
「そろそろデイタイムなんだろうな。すいてるうちに装備でも見とくか? もう安いやつなら買えんじゃね?」
「あ。そういえば」
獲得金の額を確認すれば、回復アイテムを購入してもあまるくらいにはなっていた。しかしアヤノは、それを見ながら考え込む。
「……ねえアル。装備って必要なのかな」
「あん?」
「課金の話してたとき。ショウは『自分の力でやりたい』って。そういう人にはアイテムは邪魔って――」
「ああ。そりゃモノによるよ。あん時はパラメータ上昇アイテムの話だったろ? 悪いこと言わねーから防具は買っとけ。アヤの場合は特に、魔法耐性のあるやつな」
「魔法の防御?」
「今までの敵はみんな物理攻撃だったけど、第4ステージからは魔法攻撃してくるやつもいる。それの対策は必須なんだよ」
アヤノはステータス画面を思い出す。パラメータには『物理攻撃力』『魔法攻撃力』があり、防御もそれに対応していた、そういえば。これまで気にしていなかったが、やっぱりまったくの別物なのか。
「一応オレだって対魔法防具は着けてんだぜ」
「……どこに?」
「これこれ」
かなりシンプルに見える服装のどこにと思っていたところ、アルはひょいと片足を上げ、足首を持って見せた。
履いているのは『靴』と呼べそうなものではない。布をかぶせて紐で固定しているだけだ。そしてよく見ると、足首には赤い石つきの細い輪がはまっていた。全然気がつかなかった。
「防具っぽくない」
「ちゃんとそれっぽい形のもあるぜ。けど、こういう『効果』だけのを選ぶヤツも多いな。オレは見た目重そうなのがいやだったからこっちにした」
「……うん。重いの、いやかも」
「実際の重さじゃねーんだけどさ。まーとにかく、店行ってみっか?」
アヤノはうなずいて、アルと共に店の方へ足を向けた。
* * * * *
「そう。それで、これを買ったんだ」
数時間後に戻ってきたショウは、アヤノの報告に微笑した。
「ちゃんと対魔法用だね。最初はそんなところかな」
「この手のやつなら、いらなくなったら売れるしな」
「これ。売りたくない」
左中指につけた指輪をかざし、アヤノは目を細めた。赤い石がはめ込まれ、細めの輪の部分は鮮やかな金色。一目惚れだった。
「気に入ったの?」
「うん」
「そっか。よかったね。――アル、変わったことは?」
「なにもねーぜー」
それを聞いたショウはほっとしたように息を吐き、メッセージ確認画面を開いた。
「ダンテもユーリも、しばらく来られないみたいだ。どっちか来るまでは休憩とりつつレベル上げに専念しようか」
「3人だけでフィールドに出るの」
「いったん第1、第2ステージに引き返すのもありじゃないかと思う。慣れない第3よりいくらかは安全だしね」
「あーなるほど。単独の数値は低くても数打って稼ぐ方式か」
ふんふんとうなずいてから、はたと、アルは目を見開いた。
「休憩ってなんだ?」
「寝るの。普通に」
「ゲームん中で?」
「ここで」
「今はひとまず、それは置いといて。どっちがいいかな――」
ぽん。
そこで新着メッセージ音が響いた。その音はあっという間に波及して、プレイヤー達はおのおのの画面確認を始めた。
これは――運営からのメッセージだ。




