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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
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ゲーム -4-


 咆哮が長く尾を引いて、熊は両手を振り上げたままの格好で消えていった。

 体力の高い敵だったらしく倒すまでに時間がかかった。やっと緊張が解けて大きく息を吐くと、アルがアヤノの肩をたたいてきた。

「お疲れさん」

「ん」

「アル、ダメージは?」

「ゼロだ」

 どうだといわんばかりに胸を張るアルのうしろではダンテがじっと画面に見入り、新たな敵の発生がないか見張っている。ショウが安心したように微笑した。

「よかった」

「心配すんなって、このステージはクリア済みだぜ?」

「注意を怠るな。油断をしていては足下をすくわれるぞ」

 不意にダンテが目も上げずに言って、アルが驚いた顔でうなずいた。

「お、おう」

「……2人とも。何かあった?」

 不思議そうなショウの問いに、むしろアルがきょとんとした顔をし、ダンテはちらりとだけショウに目を向けた。アヤノも少し首を傾けた。確かに、ついさっきまでと比べて、アルとダンテの雰囲気が違う気がする。

「は? 何かってなんだ?」

「急に仲が良くなったような気がして?」

「……。うん」

「アヤまでなんだよ!?」

「いや、仲違いしてるよりずっといいんだけど。ちょっと意外だったから」

 タイプもぜんぜん――とショウが言いかけた時、ダンテがすっと手を上げた。

「近くに敵が発生している。どうする」

「ダンテは残り時間は?」

「もう少しなら」

「じゃあ、行こう」

 アヤノは言ってダンテを見た。ダンテはマップと辺りを見比べてから奥を指さした。うなずいて踵を返したその横にショウが並ぶ。後ろからは2人がついてくる気配がする。

 通じ合っている、そんな確信にたのもしさを感じながら、アヤノは細い順路の角を折れ、敵を捉えた。

「猿……2匹」

 あれとの戦い方ならもう覚えた。アヤノは迷わず飛び出そうとした。

 その時だった。


「待て!」


 肩をつかまれ思いきり引き戻されて、後ろ向きによろめいた。どうかしたかと見上げれば、ダンテはきつく眉根を寄せている。

「なっ、なに」

「ダンテ、どうしたの」

「……1匹足りない」

「何がだよ?」

「猿2匹。だが反応の光は、3つある」

 ショウが素早く画面を開き、すぐに、緊張の面もちでうなずいた。

「本当だ。おかしいね。まだ敵には気づかれてないみたいだし、一度戻った方が無難かもしれない」

 きっと普段なら、『バグが出たのか』と簡単に済ませていた。アクションを起こすにしてもせいぜいバグ報告をするくらいだったろう。

 しかし今は、注意をしすぎるということはないといった状況だ。一応わかっている。アヤノも、そしてアルも無言で同意して、静かに後ろへと下がっていった。このままセーフティエリアまで――

 突然、ショウがぴくりとふり向き立ち止まる。と同時に馬のいななきが響いた。

「あれ。もしかして召喚獣……?」

 つぶやいた声に戦闘の激しい物音と獣の咆吼が重なった。それがしばらく続き、ぱたりとやんだところで、ダンテが顔を上げる。

「敵反応、3つとも消えたようだ」

「3つとも、か。よかった」


「あら? いたの気が付かなかったわ。こんにちは」


 そこへ姿を現したのは、初めて会うプレイヤーだった。灰の瞳、うしろでひとつに束ねた銀の髪。白い法衣を身に着け、宝飾の色は黄色。“召還士”だ。


 レベル58。プレイヤー名――“ユリウス”。


「もしかして獲物取っちゃったかしら。悪かったわね」

 言いながらにこにことこちらへ歩いてくるのを、4人はあぜんとしたまま迎えた。ごく近くまで来てやっと、ショウがはっと我にかえる。

「いや、大丈夫だ、けど」

「あらぁ? よく見たらあなたいい男ね? ね、私、今1人なの。よければ仲間パーティに入れてもらえないかしら? 損はさせないわよぉ?」

「その前に、質問をしてもいいか、ユリウス」

 ダンテがなんともいえない微妙な表情で白い召還士を見下ろす。ユリウスはあっけらかんとそれを見返した。

「ユーリでいいわ。なぁに質問て?」

「その。お前は」

 言葉を切ってためらうダンテ。そのあとをアルが――たぶん本人にそのつもりはなく――引き継いだ。


「なーお前って、男……だよな? 声が女じゃねーもんな?」


「やあねぇ、そんなにはっきり聞いてくれちゃって」

 軽く睨むようにしつつ、ユリウスはひとさし指を唇に当てた。顔立ちや仕草はたいへんに女性らしい。が、形の良い唇から漏れる声だけは――

「ナ・イ・ショ」

「……まあ、アバターの性別がどうこうって、あまり意味もないしね……」

「やだぁ優しい! ますます惚れちゃうわー!」

 ユリウスに抱きつかれそうになったショウは、さりげなく体をひねってそれをかわした。勢い余って前のめりにころびかけ、ユリウスが口をとがらせた。

 世の中にはこういう人もいるのか。アヤノはそんなことを思って妙に感心した。

「それよりぃ、さっきの返事はくれないの? さすがに1人ソロだとしんどくなってきちゃって、困ってたとこなんだけど。だめぇ?」

「それってつまり……ここまで単独でプレイしてたってこと?」

 ショウが探りを入れるような表情になる。それを受け、ユリウスがきゅっと目を細めた。

「まぁね。さすがに“オラクル”は適当なパーティに便乗させてもらってたけど」

「そうなんだ。それでレベル58か。すごいね」

「どう? 有望株でしょ?」

 ウインクを投げられ、ショウは軽く噴いて肩をすくめた。

「――わかった。じゃあまずはお試しってことで、このステージをクリアするまでっいうのはどうかな?」

 アルが「お」と声を漏らし、ダンテが若干胡乱げにユリウスを見る。アヤノはショウにちらりと視線を向けられ、小さくうなずいた。ショウにしてみれば実力のある協力者がほしいところだろう。アヤノはといえば、初めて出会うタイプのユリウスの人となりに興味があった。

「お試しねぇ。ま、最初は仕方ないかしらね」

 ユリウスは肩をすくめつつも、嬉しそうににっこりと笑った。


「一応自己紹介ね。“召還士”のユリウスよ。魔法マギアは地と水で3つ獲得済み。ユーリって呼んでもらえると嬉しいわ。仲良くしてね?」


「お試しなんてしてごめん。こっちにも事情があって。ひとまず、よろしく」

「こちらこそぉ」

 ショウが差しだした右手を、ユーリはしっかりがっちりとと両手で握った。苦笑いをしながらその手をほどき、ショウは1歩、ユーリから距離を取った。



第3章2節 了

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