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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
38/200

ゲーム -3-


 なんでこうなった。と、さすがに最初はそう思った。

 しかしなってしまった以上は騒いだところでどうにもならない。腹をくくって、やれることをやるしかないのだろう。その“やれること”の中から自分とアヤノが選んだのは。

 最初に決めたとおり、12の“紋章クレスト”を集め第13ステージを目指すこと――

 2人の答えに最初は渋ったダンテだったが、結局強くは反対しなかった。いい奴だ。改めてそう思う。ただ一言「なぜ」とだけ聞かれて、アルは答えた。


『だってよ。こんなとこで中途半端に終わらせるなんて気持ち悪いじゃねーか!』


 不安はある。でもここで引きたくないという意地が理由の大半だった。アヤノも横でうなずいて、方針はあっさり定まった。

「まずは無理のない範囲でレベルを上げる。特にアヤは、今のレベルで“オラクル”に行かせるわけにいかないからね」

 フィールドとの境界線上で、ショウがふり返って言った。アヤノが剣を提げ、ダンテが宝剣を抜きながらため息をついた。アルも愛用の銃をいつでも撃てるよう準備する。

「じゃあ行くよ。周りに充分気をつけて」

 森の中へ足を踏み入れ、先ほどと同じルートを進む。今回はまだオラクルエリアまで行かず、レベルアップに専念する予定だ。

「――この先。いるぞ」

 画面を開いたまま歩いていたダンテが顔を上げる。なるほど、障害物の多いマップではその方が敵を捕捉しやすい。ショウの合図で一度足を止め、ゆっくりと歩を進めていくと、向こうから低い唸り声が聞こえてきた。あれは、たぶん。


「……クマ?」


 アルの前でアヤノがつぶやいた。やっぱりそうだ。

「出たか重量級」

「今のところ1体しかいないみたいだ。アヤにやれる……かな?」

「やってみりゃいいんじゃん? 援護はするからよ」

「もうあんまり、アルにがんばってもらうわけにもいかないんだけど」

 言いながらショウは微笑して、ぽんとアルの肩をたたいた。

「でも、まあ……信用してる」

「あ」

 緊張の声をあげたのはアヤノで、アル達もとっさに各々の武器を構えた。

 記憶の中からデータをひっぱりだす。熊型モンスターは、体力と攻撃力が高い。その代わり動きは比較的鈍重だ。ゲームに関するこういうことはよく覚えているようだと気がついて、「なんだろーな」と自分に対して肩をすくめた。

 とにかく今は戦闘に集中だ。熊がのっそりとこちらに向き直ろうとしている。もうそろそろアクションを起こすはず――


「……行く」


 アヤノが飛び出した。と同時に熊が立ち上がった。

 体長はここまでのどのモンスターよりも大きい。小柄なアルからすると、黒い鼻面を見るのに顔を仰向けなければならないほどだ。それがこの狭いマップで動くのだから、そういう意味では厄介な相手だ。

「アル、ダンテ」

「おうっ」

「……」

 銃を構えいつでも加勢できるようにする。“ここ”のシステムでは弾薬切れがないので助かる。

 アヤノがジャンプして樹上に上がった。入れ違いに前へ出た熊が強く地面をたたく。動きは猿と似ているが、こちらの破壊力は半端ではない。かすめただけでも大ダメージだ。


「アヤ――今だ!」


 3度地面をたたいた後、熊は伸び上がって動きを止める。

 タイミングを見ての合図にアヤノもしっかり反応した。枝がたわむほどの勢いをつけて跳び、迷いなくまっすぐに斬り下ろす。アヤノの思いきりの良さはなかなかだ。成長が早いのもうなずける。

 とんっと着地し、横に剣を払ってから離脱する。ショウも枝づたいに向こう側へ移動していった。アルはその場で待機、ダンテもこちら側に残った。

「アレキサンダー」

「……、んっ」

「こちら側に新手の敵が発生する可能性がある」

 真顔のダンテに「そうだな」とうなずきながら、アルは苦笑した。正式登録名では滅多に呼ばれないので、一瞬自分のことだとわからなかった。

「無理はするな。今となってはお前にも援護が必要だ」

「わかってるって、一応。それより、呼び方“アル”でいいから」

「しかし」

「その方が慣れてんだよ。たのむよ」

「……そういうことであれば」

「っとぉ!」

 熊がこちらへ突進してきた。左右に分かれ退避して、ついでに1発だけ撃ち込んでおく。弾はちょうど熊の赤い目に当たって怯ませた。

 その背中にアヤノが襲いかかった。ショウは相変わらず投げナイフを手にじっとアヤノを見ている。危険がないよう。不足の事態に対処できるよう。そしてその目は、ちらちらとアルの方にも向けられていた。

 ――アヤと同じ扱いになってら……

 心配してくれているようで、むず痒いような情けないような。というか、ただでさえ大変そうなのに、自分のことでショウに負担をかけては悪い気がする。

 だから。


「要は……オレがしっかりしてショウを安心させりゃいいんだ」


 勝手にひとりでうなずいたとき、目の端に黒いもやが映りぱっとふり返る。

「新手だ! 猿1匹!」

 注意喚起のために叫び、形を取った瞬間を狙い連続して撃ち込む。猿なら1人でもやったことがある。だいじょうぶだ。

「アル! ……気をつけて!」

 向こうの方でショウが叫んだ。

 こちらへ来る気配は、ない。アヤノがまだ熊を倒せていないせいでもあるだろうが。

「おう、任せろ!」

 いつものようにやらせてくれる。だからいつものように言い返して、アルは勢いよく銃身のレバーを引いた。



            * * * * *




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