ゲーム -2-
「アル。メッセージ届いた?」
戻ってくるなりショウが聞いた。アルはぱちぱちと瞬いてからはっとしたように画面を開き、眉根を寄せつつ首を振った。
「いや。来てねーみてーだ」
「やっぱりか……運営サイドから試しに送ってみたんだけど」
「それも、わたしと一緒」
「うん。あともう一本個人的なメールも送っといた。確か弟がるんだよね? 気がついて返信してくれれば、アルが今どんな状態かわかるかもしれない」
「弟……?」
一瞬目が泳いだものの、すぐにあっと声を上げる。
「そーだ、いたいた! メグ――あいつ気づいてくれっかな。オレのもん勝手に触んなって言ってあった気もするけど……」
「そこは祈るしかないね」
「2人、アドレス交換までしてたんだ?」
「一方的にアルが教えてくれたんだよ。今となっては取っておいてよかったけど」
間が空いた。
互いに互いを探り合うような顔をする。遠くで他のプレイヤーの笑い声や戦闘中らしきかけ声が聞こえてきた。もう彼らとはずいぶんと距離があるように感じる。みんなそうなのだろうかとアヤノは順に3人を窺う。
と――すぐ近くを通りかかった2人組がいた。なぜか彼女らは足をゆるめ、聞こえよがしにしゃべり始めた。
「見た? あのレベルにもなってあの装備」
「見た見た」
「明らか無課金だよね……ご苦労様っていうか」
「あん? なんだあいつら」
アルが片眉を跳ね上げた。ちらりとだけ彼女らに視線を向けたショウが苦笑する。
「ほっときなよ。そういう考えのプレイヤーもいるってだけ」
「わかっちゃいるけど、ああいう言い方はねーよなぁ」
「まあね」
「課金って……してないと、何かハンデなの?」
耳にした覚えはあるが詳しいことは思い出せず――というか、元々よく知らなかったような気もする。だからきっと、利用しなくてもいい制度ではある、と思うのだが。
「えーと。まず課金システムの説明からした方がいいのかな?」
「……できれば」
「リアルの方で運営会社にお金を支払うと、強力な武器や装備や、一時的にパラメータをアップさせるアイテムなんかが手に入るんだ」
「“紋章”みたいな?」
「そんなもの。正規の紋章の方がちょっと強力だけどね」
「けど、アレ獲んの楽じゃねーし、獲っても結局追いつかねーんだよな」
ショウの説明にアヤノがうなずいたところで、アルが頬を膨らませた。
「え。なんで」
「技術関係なく問答無用でパワーアップするから、やっぱ課金してるヤツのがレベルアップ早ぇんだよ。地道にレベルと能力値稼ぐだけで上がってくのは、やっぱ手間っちゃ手間だ」
「ゲーム世界だからね。技術を磨くのもアイテムで補正するのも、『強くなる』っていう結果に変わりはない。それなら買ってしまった方が早いし、楽だよ」
それなら、とアヤノは首をかしげる。
この様子では、おそらくダンテも含めて、3人とも課金はしていないようだ。――どうして。
「……お金がもったいないから?」
「うん? ああ。それはもちろんあるよね」
ショウがあっさりうなずいて、その笑みを変化させた。
「でももうひとつつけ加えるなら、やっぱり、“技術”でどこまでいけるか試したいっていうこと」
「そうなのか? オレは単に金がないからしねーだけだけど」
きょとんとしたアルに水を差され、アヤノはちょっと顔をしかめた。しかしショウの方は「そうなんだ」と軽く噴いた。
「とにかく、どっちの方法がいいかっていうのはプレイヤーの目的次第だから。早く先のステージをプレイしたいんだったら課金するのもひとつの手だし……」
ふと青い瞳を向けられる。アヤノはちょっと目を見開いた。
「アヤみたいにひたすら戦闘技術を磨きたいなら、むしろアイテムは邪魔かもね。そういう話。ただ、考え方の違う相手を非難するのはお子さまのすること、かな」
「そんなことよりも……これからどうする」
それまで黙っていたダンテが口を開いた。眉間に深くしわが寄っている。最初の頃に戻ったような難しい顔だった。
「2人を同時に護衛しながら最終ステージを目指すというのは、難しくはないか。こうなっては、まず運営の調査を待つべきなのではないか?」
「……たしかに、難しくはなったけど」
ショウがアヤノとアルを順に見た。『もう答えは決まっている』、そんな顔に見えた。
「僕は2人の意思を尊重する」
「またそれか」
「だけど、それが管理側の責任だと思うから」
プレイヤーの希望を最優先に。以前言っていたことを貫くつもりのようだ。それはきっと、必ずプレイヤーを守るという誓いまで含めて。
アヤノとアルは、ちらりと目を見交わした。
「それなら。わたし達は――」
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