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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
37/200

ゲーム -2-


「アル。メッセージ届いた?」


 戻ってくるなりショウが聞いた。アルはぱちぱちと瞬いてからはっとしたように画面を開き、眉根を寄せつつ首を振った。

「いや。来てねーみてーだ」

「やっぱりか……運営サイドから試しに送ってみたんだけど」

「それも、わたしと一緒」

「うん。あともう一本個人的なメールも送っといた。確か弟がるんだよね? 気がついて返信してくれれば、アルが今どんな状態かわかるかもしれない」

「弟……?」

 一瞬目が泳いだものの、すぐにあっと声を上げる。

「そーだ、いたいた! メグ――あいつ気づいてくれっかな。オレのもん勝手に触んなって言ってあった気もするけど……」

「そこは祈るしかないね」

「2人、アドレス交換までしてたんだ?」

「一方的にアルが教えてくれたんだよ。今となっては取っておいてよかったけど」

 間が空いた。

 互いに互いを探り合うような顔をする。遠くで他のプレイヤーの笑い声や戦闘中らしきかけ声が聞こえてきた。もう彼らとはずいぶんと距離があるように感じる。みんなそうなのだろうかとアヤノは順に3人を窺う。

 と――すぐ近くを通りかかった2人組がいた。なぜか彼女らは足をゆるめ、聞こえよがしにしゃべり始めた。

「見た? あのレベルにもなってあの装備」

「見た見た」

「明らか無課金だよね……ご苦労様っていうか」

「あん? なんだあいつら」

 アルが片眉を跳ね上げた。ちらりとだけ彼女らに視線を向けたショウが苦笑する。

「ほっときなよ。そういう考えのプレイヤーもいるってだけ」

「わかっちゃいるけど、ああいう言い方はねーよなぁ」

「まあね」

「課金って……してないと、何かハンデなの?」

 耳にした覚えはあるが詳しいことは思い出せず――というか、元々よく知らなかったような気もする。だからきっと、利用しなくてもいい制度ではある、と思うのだが。

「えーと。まず課金システムの説明からした方がいいのかな?」

「……できれば」

「リアルの方で運営会社にお金を支払うと、強力な武器や装備や、一時的にパラメータをアップさせるアイテムなんかが手に入るんだ」

「“紋章クレスト”みたいな?」

「そんなもの。正規の紋章クレストの方がちょっと強力だけどね」

「けど、アレ獲んの楽じゃねーし、獲っても結局追いつかねーんだよな」

 ショウの説明にアヤノがうなずいたところで、アルが頬を膨らませた。

「え。なんで」

「技術関係なく問答無用でパワーアップするから、やっぱ課金してるヤツのがレベルアップ早ぇんだよ。地道にレベルと能力値タレンド稼ぐだけで上がってくのは、やっぱ手間っちゃ手間だ」

「ゲーム世界だからね。技術を磨くのもアイテムで補正するのも、『強くなる』っていう結果に変わりはない。それなら買ってしまった方が早いし、楽だよ」

 それなら、とアヤノは首をかしげる。

 この様子では、おそらくダンテも含めて、3人とも課金はしていないようだ。――どうして。

「……お金がもったいないから?」

「うん? ああ。それはもちろんあるよね」

 ショウがあっさりうなずいて、その笑みを変化させた。

「でももうひとつつけ加えるなら、やっぱり、“技術”でどこまでいけるか試したいっていうこと」

「そうなのか? オレは単に金がないからしねーだけだけど」

 きょとんとしたアルに水を差され、アヤノはちょっと顔をしかめた。しかしショウの方は「そうなんだ」と軽く噴いた。

「とにかく、どっちの方法がいいかっていうのはプレイヤーの目的次第だから。早く先のステージをプレイしたいんだったら課金するのもひとつの手だし……」

 ふと青い瞳を向けられる。アヤノはちょっと目を見開いた。

「アヤみたいにひたすら戦闘技術を磨きたいなら、むしろアイテムは邪魔かもね。そういう話。ただ、考え方の違う相手を非難するのはお子さまのすること、かな」


「そんなことよりも……これからどうする」


 それまで黙っていたダンテが口を開いた。眉間に深くしわが寄っている。最初の頃に戻ったような難しい顔だった。

「2人を同時に護衛しながら最終ステージを目指すというのは、難しくはないか。こうなっては、まず運営の調査を待つべきなのではないか?」

「……たしかに、難しくはなったけど」

 ショウがアヤノとアルを順に見た。『もう答えは決まっている』、そんな顔に見えた。

「僕は2人の意思を尊重する」

「またそれか」

「だけど、それが管理側の責任だと思うから」

 プレイヤーの希望を最優先に。以前言っていたことを貫くつもりのようだ。それはきっと、必ずプレイヤーを守るという誓いまで含めて。

 アヤノとアルは、ちらりと目を見交わした。


「それなら。わたし達は――」



            * * * * *



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