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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
36/200

ゲーム -1-


 二人目のログアウト不能者。それは状況に慣れてゆるみ始めていた雰囲気を、意識を一気に凍らせた。

 セーフティエリアに引き返し、ショウがアルと何やら話している間、ダンテも、アヤノも無言だった。どれだけ大変なことが起きたかというのは察しがつく。自分だけの問題ではなくなったのが逆にショックで、アヤノは小さなため息をくり返した。

「……アヤノ」

 ダンテの声に顔を上げる。ショウと、少し引きつった顔のアルがこちらへ来るところだった。

「大体のところ、アヤといっしょみたいだ。リアルの記憶、ログインする直前の記憶がすっぽり抜けてる。幸いというか、僕はアルとリアルの話をしたことがあったから、その辺は少し思い出してくれたみたいだけど」

「それでも“ログアウト”はできない、か?」

 低く言ったダンテに、ショウは重くうなずいた。

「らしいね」

「そうか」

「ショウ、オレ……」

「うん。わかってる。落ち着いて」

 さすがに不安げなアルの頭を軽くたたき、ひとつ息を吐く。ショウも平静を装ってはいるものの、声が重く、固い。

「1回向こうで報告してくるよ……ダンテ、まだ時間は大丈夫?」

「しばらくは問題ない」

「できるだけ早く戻ってくるから」

「待て、ショウ」

 ダンテが呼び止めた。長い腕を組み、眉間に深くしわを作る。

「2人目だ。これは非常事態ではないのか」

「……そうかもしれないね」

「システムを停止する、というわけにはいかないだろうが、せめてログインを制限するべきでは?」

 次にいつ同じことが起きるかわからない。そう考えるとダンテの意見はもっともだ。

 しかし、ショウは困ったような顔で笑んだ。

「その辺は、僕に決められることじゃないけど。とにかく行ってくるね」

 ショウの姿が消える。残った3人は所在なく目を見交わした。

「アルは……思い出したんだ? リアルのこと」

 聞くともなしに聞いてみた。するとアルは「まあ」と曖昧にうなずいた。

「名前と顔と、ちょっとしたことくらいな。それでもお前よかマシなんだろーけど」

「アヤノは相変わらずか」

 問われてうなずく。今でも名前以外にはっきりと思い出せることはない。時々おぼろげなイメージがかすめていくだけだ。

「名前は本名。まだそれだけ」

「そうか……」

「お前はだいじょうぶなんだよな、ダンテ」

「今のところは問題ないが」

 ダンテは腕を組んだまま2人から視線をそらした。黒い眼に一瞬よぎったものは不安感だったろうか。

 無理のないことかもしれない。アヤノだけが例外というわけではなくなったのだ。それはつまり、ダンテもいつログアウト不能になるかわからないということだ。

「帰った方がいいんじゃない。ショウにはわたしから言っとくし」

「……。いや」

 しかしダンテは、ゆっくりと首を横に振った。

「一度引き受けたものを投げ出すのは主義に反する」

「けど……主義とか言ってる場合じゃなくね? まだ原因だってさっぱりわかってないのによ……」

 いつになく弱気な顔のアルを見て、ダンテがまた首を振る。今度は迷いのない仕草だった。

「リスクは承知の上だ。協力者は必要だろう」

「いいの、わたし達みたくなっても」

「まだそうなるとは限らない」

 協力してくれるというならアヤノ達にとってはありがたいが。本当に大丈夫なのだろうか。

 と、どこか吹っ切ったように、ダンテが微笑した。

「気遣いは無用。俺が俺の意志ですることだ。仮に何かあったとしても、恨みはしない」

「ダンテぇ……お前っていいヤツだったんだな」

 アルが大感激の体で両のこぶしを握った。その横で、アヤノも小さく「ありがとう」とつぶやいた。



            * * * * *



『――何をやってるんだ、ショウ!? お前マップを移動してるだろう、下手に動くなって言わなかったか俺は!?』

 連絡をとってみたところ、第一声は怒声だった。しかしこの程度は慣れている。端末を耳から少し離してやり過ごし、一区切りついたところへ質問をねじ込んだ。

「大丈夫。問題は起きてないよ。それよりどう? 連絡ついた?」

『お前な……まあ結論を言えば、プレイヤー“アヤノ”からの応答はまだだ。ただ登録のアドレスから、少しわかったことがある』

「! もしかして身元が?」

『確認中だ。だからお前はもう動くなよくれぐれも! ヘタ打ったら、VRゲームの存亡に関わるからな!?』

「……わかってるよ」

 通話が切れた。少し考え、もう一度端末の画面を見る。操作を始める。

 それは通話ではなく、メール作成の画面だった。



            * * * * *



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