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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第3ステージ:森林
33/200

アバター -1-


 ヘッドセットをはずすなり、彼はぶんぶんと首を振った。それでも残るけだるさは、いつもよりだいぶ長い時間“テオス・クレイス”にいたせいだろう。

「……。大丈夫なのか、ほんとに……」

 ショウの腕は確かだし信用している。ただ、それだけで安心できるような状況ではない。自分は楽観的な方だが、さすがにそこまでおめでたくない。と思う。

 次にログインできるのは明日の夜中だ。ダンテは明日の午後からと言っていた。それまでショウがつき合って残るという。

 みんなそれぞれに事情があって、やれることは限られている。その中でどうにかやっていくしかないということだ。

「とりあえず、寝るか」

 大きくのびをしてから、彼はベッドの方へ這っていった。

 その背後でヘッドセットのランプが点った。それはメッセージの着信を報せるランプだった。



            * * * * *



「……アヤ」

「ん」

「落ち着いた?」

「……うん」

 アルもダンテもタイムアップで帰っていった。今は第2ステージのセーフティエリアで、ショウと共にひとまず待機している。

 町のところどころには少ないながらベンチが設置されている。2人並んで座っていると、たくさんのプレイヤーが、こちらには目もくれずに通りすぎていった。

 アヤノは暇に飽かせて画面を開く。もう1度あのメッセージを確認する。着信時の動揺はもうない。内容について議論をするうち、だんだん冷静に見られるようになってきたらしい。

 思えば気持ちが悪いと感じただけで、内容は親切心による忠告なのかもしれない。もちろん悪意や脅しではないと決まったわけではないけれど。

「“ゴースト”」

「かどうか、まだわからないよ。現れたわけじゃないし」

「会ったことないの」

「ない。そもそもアレは噂の域を出てなくてね。今のところは、目撃証言の共通点が多いから存在はするんじゃないか、っていう推測だけ」

「ふうん」

「メッセージ送信元の確認は本職に任せてるとこ。……すぐわかるといいんだけど」

 それにしても、待つだけというのはやっぱり退屈だ。しかも今度はかなり間が長い。どうしてももてあましてしまう。

「ところでアヤ。ちょっといいかな」

「?」

「プロフィールから、“アバター”っていうの、開いてみてくれる?」

 言われたとおりにしてみると、表示されたのはアヤノの姿だった。焦茶の髪に金色の瞳。まだ初期段階の軽い装備。自分を見下ろして見比べて、首をかしげる。どうしてこれを見せようと思ったのだろう。

「前に言ったけど、これはこの世界での姿だ。しかもアヤが自分でデザインしてるはずなんだ。これ見て何か思い出さない? “テオス・クレイス”はアバター作成の自由度がすごく高いから、絶対に本人の好みが反映されてる。それがリアルでのアヤを思い出すきっかけにならないかなって」

「……うーん……」

 自分の好み。と、言われても。

「キャラメイクの選択肢を覚えてないときついのかな」

「選択肢」

「うん。まずは性別。次におおまかな体格と顔のタイプ。その後に細かな補正ができるんだけど、そこはとりあえず置いておこうか」

 説明を聞きつつ画像に視線を戻す。客観的に自分の姿を見るのはどうにも妙な気分だ。たとえ本当の姿ではないにしても。

 ショウがこちらに向き直った。探るような調子で口を開く。


「まず始めに。どうして“女”を選んだの、アヤ?」


 ぴくりと肩が震えた。メッセージが来たときとは違う不快感がこみ上げて、眉をひそめる。

 ――女、だからって。

「いやなこと言って悪いけど、アヤは女の子扱いされると怒るよね。でも、男になることだってできたのに、そうしなかったんだ。どうしてかな?」

「……」

「別に、口に出さなくてもいいからね?」

 プライバシーだからと、前にも聞いたようなことをくり返す。

 アヤノは口をつぐんで考えた。なぜ女なのか。男ではないのか。

 それは、自分が――

「ああそうだ。あと参考になりそうなものに、“色”があった」

 思い出したようにショウがつけ加えた。画面に近づけた指は、アヤノの瞳を示していた。

「特に瞳の色。まず嫌いな色は使わないから。黄色系は好き?」

「好き」

 これは即答できた。ふわふわの卵色などではなく、きりっとしたレモンイエロー。強い色味の黄。この色を選ぶのに迷いはなかった、はずだ。

 なぜなら大好きな――――が、鮮やかな黄色をしていたから。

「どう?」

「……。ちゃんと思い出したわけじゃないけど」

 少しだけ『自分』という人間の傾向はわかった気がした。それに、頭の隅の方でちらほらと閃くものがある。それがリアルでの記憶だという確信はあって、いずれは、何かしらの形になって見えてきそうだった。

「記憶が戻ったら何か進展があるかも……っていうのは欲張りすぎかな。とにかく変化のきっかけになったらいいんだけど」

 笑顔のようでも目は笑っていない。ふと思いついて、そんなショウの袖をつかむと、青い目がぱちぱちと瞬いた。



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