オラクル Ver. アテナ -4-
「おー、ひょっとして初クリティカルじゃねー?」
「痛いバカ」
「あ? わりぃわり」
「……5体倒した。残りは35だ」
ダンテが画面を見ながらつぶやいた。黒い瞳をショウに向け、無表情に口を開く。
「“紋章”獲得のためにはすべて倒さなければならないのだろう。それなりに時間を費やしそうだが、手分けというわけにもいかないな」
「そうだね。悪いけど全員いっしょに行動してほしい」
ショウはちらりとアヤノを見た。――わかっている。今の実力では、自分はまだお荷物だ。絶対にゲームオーバーにならないと約束したからショウの方針には反対できないが、やはり気になってしまう。
早く。もっと。
強くなりたい。
「だけどこのメンバー、いけそうな気がするけどね。今だって2回目の共闘とは思えないくらいやりやすかったし」
「そういやそうだな」
「……それならよかった」
ダンテの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
しかしそれもすぐに引き締まる。
「まったく、オラクルエリアはせわしない」
新手だ。空中に2体。確認したところで、アヤノは斜め後ろからのショウの声を聞く。
「この辺で複数相手も経験してみる? 今ちょうどいい機会かもしれない」
言われてみれば、まだあまり多対一でやっていない。アヤノは敵1体だけに集中すれば済むよう3人がいつも気を配ってくれるからだ。
しかし、いつまでもこんな調子ではいられない。
「やる」
「うん。じゃあいってみようか」
軽く肩を押される。それを合図に走り出す。
ちょうど敵の形が固まった。どちらも蝶だ。第2ステージでは一番厄介な相手のようだがもう止まれない。
まずは1体。もう片方の攻撃に注意、と心の中で自分に言い聞かせて。
下段から斬り上げる。ダメージ表示を見てから一瞬ふり返る。と。
「! 早――」
すぐ後ろまで迫られていた。驚いて止まりそうになった体を無理に動かしとにかく伏せる。なんとかかわした。蝶は頭上すれすれを通りすぎていった。表示を気にしていてはダメだ。遅すぎる。
「……どっち……!?」
また立ち上がると、いつの間にか最初の蝶も移動していて、どちらがそうなのかわからなくなっていた。
少し迷ってから思い直す。もうこの際どっちでもいい。どうせ両方とも倒すのだ。
だから、今の段階で手近な方を。
そう思いながら剣を握り直した瞬間、また突撃をかけられた。なんとか方向を見て直角に逃げる。が、羽がわずかにかすめたらしい。衝撃と共に生命力のゲージが少し減った。
「アヤっ……」
蝶に向けて上がりかけたアルの銃を、ショウは手で押さえた。
「まだ大丈夫だ」
「ほんとかよ!」
「ぎりぎりまでは手を出さない。でないとアヤが経験を積めない」
アルが顔をいやそうにしかめる。無言の抗議は受け流しつつ、ショウもまったくの平静でいるわけではない。今も片手を短剣の柄から離すことができない。
それでも、決めたことだ。まだ果敢に挑みかかる後ろ姿を見やって目を細める。
「アヤも強くなってきてるし……大丈夫」
「――あ!」
アヤノがつまづいて片膝をついた。そのすぐ近くで、片方の蝶が鱗粉を出す体勢に入っている。
『魔法!:アフティダ!!』
とっさに手持ちの最強魔法を唱える。光が奔り蝶を打った。それなりに生命力は削れていたらしく、その一撃で蝶は消滅した。
アヤノが一瞬こちらを見た。少し悔しそうな顔。しかしすぐに立ち上がって次へと向かう。
「しょーおー」
「うん……こういうこともあるよ」
一気に疑わしげになったアルに、ショウはにっこりと笑って見せた。と、そこにアヤノの短いかけ声が重なった。
蝶が墜ちた。今度こそ自力で勝ったようだ。アヤノはふうっと息を吐き、「どうだ」とばかりの強気な視線をこちらを向けた。
「お」
「ね?」
「なーにが『ね』だよ」
アルが笑いながら睨んできた。ショウはわざとらしく首をすくめた。
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