オラクル Ver. アテナ -3-
それからは順調に経験値を稼ぎ、予定通り30分でダンテも合流した。
そうして向かった第2ステージの神殿で、待っていたのは甲冑姿の女神。栗色の髪をさらりとなびかせ、射抜くような緑の瞳をアヤノたちに向ける。
『そなた達、何用でここへ来たか』
凛とした声。同じ女神でもヘラとはだいぶ印象が異なった。長大な槍を手にすっとたたずむ姿はこちらの背筋もまっすぐにさせる。
「アテナは甲冑姿のまま生まれたっていう武神だからね。立ち位置も役割も、ヘラとは違う」
ショウがそっとささやいた横で、アルが叫んだ。
「アテナ! オレ達は“オラクル”をやりにきた!」
『試練を望む者達か。
ならば私の庭へ向かえ。少々困っていたところだ。
私の宝を盗んでいったものがいる。
それを取り戻してきたならば、そなた達に報賞を与えよう』
「てか、こいつなら自分で戦って取り返せんじゃねーのっていっつも思うんだよなーオレ……」
アルがぼやき、それをダンテが呆れたように見下ろして、ショウが苦笑を漏らす。
「そこはゲームの設定だから仕方ないよ」
『ではここに門を開こう。いつなりと発つがいい』
すっとアテナの姿が溶け、緑色の扉が現れた。アヤノはひとつ深呼吸をしてそこへ歩み寄る。うしろから3人が続く。ヘラの時と同じように、全員で、扉に触れる。
扉の発光と共に意識が浮いた。
増した光はほどなく弾け、変化した光景が周囲に広がると、アヤノは軽く顔をしかめた。
「やっぱり、こういう色なんだ」
どこまでも続く丘と、薄く緑色を帯びた空。色を合わせるという意図は理解できても感覚的になじみづらい。
「まーその辺はさ……だんだん気にならなくなるって」
「慣れてしまえばな」
「新しいステージに入った時、最初はちょい気になるけどな!」
「一般フィールドと区別するための仕様でもあるんだけど。プレイヤーの意見として報告しておいた方がいいかな?」
ショウが複雑そうに笑った。それを見て何か言いかけたアルが、急に真顔になって進行方向を睨む。
「もう来てんぞ」
「うん」
そちらを向くまでもなくショウが剣を取り、アヤノとダンテも身構えた。
敵モンスターが現れる。カマキリが2体、蝶と蜂が1体ずつ。いずれもバトルフィールドにいたものとは少しだけ色合いが違った。
「4体か」
「どうすんだショウ」
「まずは2体――かな」
「よっしゃ!」
アルが銃のレバーを引いた。同時に、ダンテが宝剣を高く上げる。
『魔法:スィエラ』
風属性の全体攻撃だ。一斉にダメージが飛んだところへアルとショウが飛び込んでいく。ショウが重い剣戟を蝶に浴びせ、アルがカマキリの一方を続けざまに撃った。
「――下がれ、鱗粉だ!」
ダンテが声を張り上げた。すぐにアルが、そしてちらりとこちらを見たショウが飛び退いた。
『魔法:カタラクティス』
今度は水属性の広域防御。水の壁が立ち上がり、その内側で、ショウが上半身ごとふり返った。
「ダンテ! 僕とアルは心配いらない。ボス戦に備えて魔法を温存してくれないか!」
「……わかった」
魔力には限りがある。魔法を使用しただけ減っていく。術士は他と比べてゲージの基本数値がずっと高いはずだが、それでも配分なしには乗り切れないのだろう。
鱗粉の飛散がとぎれ水の壁も消えた。
ダン、とショウが高く跳んだ。蝶にとどめの一撃をたたき込み、着地と同時に真横に薙いでカマキリを捉える。間髪入れずにアルの1発。それでカマキリも1体仕留めた。
「アヤ!」
新手の出現に備え気を配っていたアヤノは、ショウの一声で駆けだした。
迷わず残ったカマキリに向かう。ダンテは違う方向――蜂の方へ走った気配がした。だから後ろにはかまわず剣をふるう。目の前の敵に集中する。
「アル、そっちをたのむ!」
鋭いショウの声。一瞬だけふり向くと新たにカマキリが出現していた。その横手からアルが駆け寄る。そこでもう、アルからは目を離す。
落ちてきた鎌を避ける。思ったよりもスピードが出て少し行きすぎた。なるほど急に体力値を上げるとこうなるのか。それを覚えておくことにして、やや加減をしながら跳躍する。
カマキリの真上から落下の速度を乗せて、その背に刃を突き立てた。
金属が擦れるような声を上げてカマキリがのけぞった。バランスをとって振り落とされないようにする。そして気がついた。ここは、他からの攻撃がなければ安全圏ではないか。
「おーいアヤ! そいつでラス1だぞー!」
「もしできそうなら、首の関節部分を! クリティカルになる!」
反射的に腕が動いた。
見下ろした場所、首の節と節との、境目――
ものも言わずに貫いた。ぐっと、強い手応えが返った。
足場が消失し草の上に落ちる。足がついたところへ他の3人が駆け寄ってきて、アルに肩をどつかれた。




