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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
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オラクル Ver. アテナ -2-



 端末越しに現状を報告すると、少しの間、絶句する気配だけが伝わってきた。

『……なんてこった。今度は地図マップ外へ出てただって?』

「次から次に不測の事態で俺も頭痛いよ。フレンド登録はし直してもらったけど、捕捉できてる?」

『一応な。ただ、相変わらずメッセージは届かないわログもたどれないわでな、クソ』

「やっぱり取得ミスじゃないのか……」

『こうなったら、登録されてるメールの方でコンタクトしかねーわ。この際だ……仕方ない』

「たのむよ」

 通話はそこで終わる。

 彼はひとつ息を吐いて、再び、ヘッドセットをかぶり直した。



         + + + + +



 第2ステージに戻ってみると、なぜか、アヤノとアルが戦闘中だった。

 は、と口を開けたショウも遠巻きに様子を眺めているギャラリーもおかまいなしに、アヤノが跳ぶ。回し蹴りをアルにたたきこもうとする。アルは素早く身を沈めてそれをかわし、地面についた両手を軸にぶんっと体を回して着地寸前のアヤノの足を払う。アヤノはバランスを崩したが、前方へ転げてすぐに体勢を立て直した。

 そこで初めてショウに気がついたらしく、2人同時にこちらを見た。

「ええと……何してるの2人とも」

「お、ショウ! そろそろ来ると頃だと思ったぜ!」

「ウォーミングアップ」

 ふうっと息を吐いて、アヤノが立ち上がる。相変わらずふてくされたような表情をしているが、金色の瞳は鮮やかに燃えている。やる気満々らしい。

 やる気はないよりある方が助かる。こちらと目的が一致していることもだ。うまく誘導して、なんとか第13ステージ踏破を達成させてやれればと思う。もちろんその前に、現実世界リアルでなんらかの決着がつけば言うことはないのだが。

「ダンテからさっき連絡があった。少し遅れてくるって。……先に出ておく?」

 言うと、即座に答えが返る。

「行く」

「当然!」

「わかったわかった。ただし、オラクルエリアに入るのはダンテが合流してからね」

 まだ第2ステージだ。経験者が2人ついていれば、なんとか。そう判断してフィールドへ出た。

 さっそく出迎えに現れたのはカマキリと、巨大な蜂が一体ずつ。

「アヤ、蜂は初めてだった?」

「ん」

「じゃあ一度やっておいた方がよさそうだね」

「ならオレは、カマキリの方やっときゃいいな?」

 アルが早くも銃を構えた。その背をぽんとたたけば、にやりと笑って飛び出していった。

 視線を戻すと、アヤノも剣をゆっくり正面に掲げたところだった。落ち着いている。未知の敵はまず観察――教えたことをしっかり守ってくれている。

「第2ステージで一番動きが単純なのは、実はそいつだ。やれるよ」

 鼓舞のための声をかける。アヤノは敵を見据えたままうなずいた。ぐっと膝を矯め、タイミングを計って、跳んだ。

 予想外の高さにショウは思わず目を見張った。レベルは自分が落ちる前と代わっていないはず。ということは、能力値タレンドを使って体力フィジカルの数値を上げたのか。


「っらあああああああああぁ!!」


 アルの雄叫びと銃声が響いた。それでふと、アルがアドバイスをしたという可能性はありそうだと思った。彼もプレイ開始当初は攻撃力を重視するタイプ――というかひたすら攻撃的だった。もちろんアルの方がゲーム慣れしていたが、アヤノと少し似ているところがあって、同調しやすそうだとは思っていたのだ。

 結果的にアルが仲間になってくれたことでだいぶ助かっている。今となってはあの時突っぱねなくて良かったと思う。

「アル、新手が来たらたのむ!」

「任せろーっ!!」

「アヤ?」

 蜂が針を振りかざし、ジグザグに飛行していた。アヤノはそれを冷静によけ、静止したところですかさず攻撃を仕掛けた。いい動きだ。成長が目に見えると教えるのもおもしろい。

「……あっ」

 短く上がった声。反射的に腰の短剣に手が伸びた。しかし、蜂が大きく振り回した針を、アヤノは自力で回避した。そうだそれでいい。手は剣柄に触れたままでじっと戦いを見守る。アヤノの防御力と蜂の攻撃力。一撃でやられることはないはずだが連続でダメージを受けることは考えられる。油断はできない。

「ショウ!」

 アルが銃を抱えたまま駆け寄ってきた。いつでも撃てる体勢だ。ちらりと見やればカマキリはもういない。アヤノの集中を削がないよう、アルには「しっ」と人差し指を立てて見せた。

 アヤノが下から斬り上げた。蜂のダメージ表示。自分のカウントが正しければ、あと少しで。

「やあっ!!」

 蜂が草の上に落ちた。そこへアヤノが剣を突き立て、蜂は消滅した。

「おー、やったじゃん!」

 アルが飛んでいった。アヤノがこちらを向いて、2人は自然にハイタッチした。いつの間にそんな仲になったのか。少しばかり驚きつつ、気づけば微笑がこぼれていた。

 その時耳慣れたメッセージ音が響いた。ダンテからだ。

「2人とも、ダンテが30分後にこっちに来るって。それまでにできるだけレベルを上げておこうか」

「おーうっ!」

「了解」

 ショウは目を細めた。いいコンビだ。こんな状況だというのに、なんとなく楽しくなってきてしまう。

 だから――一度深呼吸して笑みを消した。


 楽しんでいる場合じゃない。

 自分はこの中で、唯一責任を負うべき立場の人間だ。忘れるな。


 そう言い聞かせれば、急速に、頭の芯が冷えていった。



            * * * * *



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