フレンド -2-
『システム:道具:マルメロ!』
回復アイテムを呼び出し消費する。ゲージの回復を確認して剣を構えると、急にアルがふり返った。
「アヤ、うしろだ!!」
はっと体を返す。新しい敵。新しい形は、長大な鎌を振り上げた。
「カマキリ――!」
「そいつも遠距離攻撃持ってんぞ! 気をつけろ!」
目の前でガッ、ガッと立て続けに土を削る鎌。思ったよりも動きは遅い。とっさに傍らを窺うと、アルは両方を見比べながらも蝶の方に意識を向けていた。たぶん、難易度はカマキリの方が低いということだ。
それなら。
「こっちはわたしが!」
叫んで、跳ぶ。鎌を引き抜く寸前に胴体に斬りつける。
成功した。ダメージ表示を横目にすぐにまた後ろへ下がって次の動きを観察する。カマキリはカタカタと三角の頭を振り、鎌を大きく横に薙いだ。それから大きく薄羽を開く。
飛ぶのか。そう思った矢先、さっきとは違う体勢でカマキリが鎌を上げた。
「逃げろ、衝撃波だ!!」
アルのあわてた声が聞こえた。反射的に横へ跳んで転がるが、間に合うか――
『魔法:カタラクティス』
『魔法:エクリクシー!!』
ざあっと水音に包まれた。顔を上げれば敵カマキリとの間に水の壁が立ち上がり、その向こう側で次々に火柱が上がった。そのうちのひとつはカマキリを直撃し、横倒しにさせた。
「おっせーぞショウ、ダンテ!!」
銃声とほっとしたようなアルの声が重なった。蝶が墜ちる。そこへダンテが宝剣を向けた。
『魔法:スィエラ』
風が巻き起こり広がった。それが蝶とカマキリ両方へのとどめになった。
ほんの少しの空白。――新しい敵はわいてこないようだ。ショウがふっと息を吐き、抜き身の剣を握ったまま足早にこちらへ向かって来た。
「よかった、無事で……!」
「ショウ……」
「防御は間に合ったようだな」
ダンテはその場に立ったまま宝剣を腰に戻した。そういえば呪文は2人の声で聞こえたと思い出す。水の防御がダンテ、火の攻撃がショウの魔法だったらしい。
それはともかく。アヤノは気まずくうつむいて唇を引き結んだ。どんな顔をして良いかわからない。3人とも来てくれるなんて。助けてくれるなんて。
「アヤ。さっきはごめん。謝るからもう1度だけ話を聞いてくれないかな。今の君の状態、ちょっと危険なんだよ」
ショウが上からのぞき込んでいる気配がした。さっき腹を立てたことが、今は逆に不思議だ。どうしてあんなに意固地になったのだろうか。
「わたしも、その……熱くなりすぎた、かも」
ぼそぼそと口の中でつぶやいてみる。ちらりと見上げると、ショウの苦笑が視界の隅をかすめた。
「とりあえずセーフティエリアに戻ろう。話はそれから」
「ん」
「――って、いうつもりだったんだけどね」
アヤノは今度こそ顔を上げた。後ろへ下がったショウは、目が合うとうなずいて、丘の向こうへ視線を投げる。
「このまま進もう。アヤも、そのつもりだったんだろ?」
「え……でも」
「幸いメンバーも4人に増えたから。第2ステージくらいなら楽にサポートできると思うんだ」
「!」
「待て。その前に聞いておきたい」
アヤノが驚いて目を見張っているところへ、ダンテが声を上げた。
「方針をはっきりさせてほしい。我々は“第13ステージ”を目指すべく行動する、それは変わりないと理解した。だが我々の立場はどう解釈すればいい。強固な護衛か? 消極的なサポートか? どこまで徹するべきだ?」
「……ショウ。オレ、ダンテが何言ってっかわかんねー」
「行動範囲の線引きしておきたいってこと。そうだね、この辺でそれは必要なことかもしれない」
ショウはアルの情けない顔を笑ってから、少しだけ間を取り、うなずいた。
「まずは現状整理。アヤは1人のプレイヤーとして13ステージを目指してる。間違いないよね? そして僕の方でも、本社からの連絡は待ちつつ、もうひとつの『解決の可能性』である13ステージへ進みたい。それぞれの目的が合致していることを前提として、僕はこうしたいと思う。
過剰な保護はせずサポートに徹する。運営の基本方針としても、プレイヤーへの介入は最小限にすべきとあるからね。ただしひとつだけ、例外条件を設定する。『プレイヤーに危険が及んだ場合、いかなる事項にも優先して救済措置を図る』の条項に則って、アヤがゲームオーバーになりそうな時は、どんな状況であっても助ける。たとえアヤの意思に反することになっても」
息をつき、3人に笑いかける。
「同意できないところがあったら教えてほしい。その時はまた話し合おう」




