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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
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メッセージ -2-


 ショウがメッセージを送ってから返信まで、ほとんど時間はかからなかった。むしろ待ちかまえていたのではという素早さで第2ステージの“扉”に姿を現したアルは、ショウと顔を合わせるなり叫んだ。

「どうなった!」

「落ち着いて。これから説明するから。とりあえず、もう少し静かな場所に行こうか」

「お、おう、わかった……って、あれ。こいつ誰?」

 そこでアルはやっとダンテに気づいたらしい。ショウは小さく苦笑した。

「それも含めて話すよ。来て」

 4人は狭い裏道に入った。人が来ないことを確認し、ショウがまず、口火を切る。

「まず確認するね。アル、ダンテ。『これから話すことは他言しないでほしい』――って言ったら同意できる?」

「んあ?」

「内容による。内容を聞かない限りはなんとも言えない」

 ダンテは眉根を寄せ、腕を組みながら答えた。そう返されても無理はないだろうとアヤノは思う。しかしショウは、強く首を振った。

「それじゃ困るんだ。不確定ならはずれてもらう。そのくらいの厄介事だからね、この段階で関わるのをやめた方がダンテにとっては得かもしれないよ」

「……」

「僕は、できれば協力してほしいけど。それもこっちの都合だから気にしないで」

「なんかよくわかんねーけど、とにかく人手が必要なのか?」

 アルが勢い込んで前へ出た。

「ならオレはぜってー誰にも言わない。約束する。だから教えろよ」

「君はそう言ってくれると思った。ありがとうアル」

 ショウがにやりと笑った。「ちょろいな」と副音声が聞こえた気がしてアヤノは呆れた。が、アルがにっと笑い返して親指を立てたので、まあ同意の上ということで問題はないだろう。

「で、ダンテはどうするの」

 視線が自然と集中した。ダンテはしばし目を閉じる。

 沈黙――そして、ふと低い声が漏れる。

「わかった」

「それはどっちの意味で?」

「他言はしない。話を聞こう」

 ショウは念を押すように3人を見回した。それから、まるで自分が覚悟を決めるように、一瞬顔を仰向けた。

「ありがとう。じゃあ最初に、僕のことをひとつ、話しておこうか。“テオス・クレイス”を管理してる会社、知ってると思うけど。……僕はそこの準職員なんだ」

「……。へ?」

 アルが間抜けな声を上げた。しかしアヤノは、ああ、と妙に納得したところだった。同時に少し――いやかなり、残念な気分になったものの。


「“仕事”だったんだ。全部。初心者の指導したり、問題児の指導したり」


 妙に面倒見のいいこと。突き放すことはあっても見返りは求めないこと。そういうところは尊敬しないこともなくて、だからある程度は信じてもいいかもしれないと思っていたのに。

 そんなアヤノの微妙な表情に気づいているかどうか。ショウは真顔でうなずいた。

「まあ、半分はそういうこと。システムトラブルをみつけたら報告するとかも含めて。で、いよいよ本題なんだけど、ダンテもいるし最初から話すね。騒がないで聞いてほしい」

「アヤの“幻想症候群”についてだな!」

 アルがあっさり暴露したのを、ショウが軽くにらみつけた。ダンテはというと、なんのことかわからなかったらしく交互にアルとショウを見た。

「幻想症候群とはなんだ?」

「ざっくりまとめると、『現実リアルでの自分を思い出せなくなる症状』に対する俗称。普通はすぐに回復するから、それほど問題になったことはなかったんだ。だけどとうとう例外が発生した。それが今のアヤの状況」

「彼女か」

「かなり長い時間、現実リアルを思い出せないでいるらしい。話を聞いてると、ゲーム内での一定期間の記憶もちょっとあやしいみたいだ。それだけじゃない。まだこれは“幻想症候群”と関係あるかどうかわからないけど……ログアウトができなくなってる」

「な」

「と、これだけでもけっこうハードなんだけど。なんとまだ続きがあるわけで」

 乾いた微苦笑に、アヤノは緊張を覚えた。ここから先はアルも自分もまだ聞いていない話だ。先ほどの連絡で、ショウが何を知ったのか。


「緊急の場合に備えて、運営会社はプレイヤーを強制ログアウトさせるシステムを備えてる。ところがアヤはそれさえできないらしい。運営会社に勤めてる知り合いから、さっきそういう知らせがあった」


 ダンテが大きく目を見開いた。言葉はない。そのとなりではアルがぐしゃぐしゃと自分の頭をかき回した。

「ちょ、待て。なんだそれ。つまりどうやっても『出られない』ってことかよ?」

「そうなるかな」

「なんでそうなった!?」

「それは僕も知りたいね。あ、大きな声出さないで。他のプレイヤーにこんなこと聞かれたら不安にさせる」

「……そんなことがあったとは……」

 ダンテがうめくようにつぶやいた。

 そんな3人のやりとりを、アヤノはぼんやりと眺めていた。自分の話なのにどうも頭がついていかない。危機感以前に実感が伴わないからだろうか。なにしろここから出た先の“自分”がどういうものだったのかさえまだ思い出していないのだ。

 と、ショウが再びため息をついた。

「現状はこんなところ。……それで、これからのことなんだけど」

「運営会社は、今も動いているのだろうな」

 ダンテが遮った。ショウが「もちろん」とうなずく。

「調査は全力で続けてる。ただ、時間はかかると思う。初めてのケースだから」

「それはそうだろうが」

「ん? けどそしたら、オレらにできることって、何かあんのか?」

 アルが言うと、急にショウの視線が揺れた。

 らしくなく自信がなさそうに、とつとつと、言葉をつなげる。

「……ある、と思う。運営が操作するほかにひとつだけ、プレイヤーを強制ログアウトさせる方法があって」

「マジか!」

「それが――“第13ステージ”なんだよ」



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