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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
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メッセージ -1-


 ショウは今度もなかなか戻ってこなかった。おまけにいっしょにいる相手が初対面の上無口であまり愛想もよくないとなると、居心地が悪くて仕方ない。

 たぶん、向こうでも同じようなことを思っているのだろうが。

 先ほどからダンテは腕組みして建物の壁に寄りかかっている。視線の先はこちらではなく、バトルフィールドの方向に。アヤノよりも草原を眺めている方が楽しいらしい。

「……」

「……」

「少し、と言った割には、遅いな」

 申し訳程度にダンテがつぶやいた。アヤノは「まあね」としか返せず、その流れで軽くため息をついた。

 その時。

「……あれ」

 視界の隅が光っていることに気がついた。どうやらメッセージが届いているようだ。通知音は聞こえなかったはず、と首をかしげながら開いてみると、たった2文の簡素なメッセージだった。


『13番目のステージにおいで

     そこからなら 戻れるよ』


「どうした」

 ダンテが身を起こす気配がした。自然と眉根が寄っていくのを自覚しながら、メッセージ画面に目を落としたまま、アヤノは口を開く。

「“テオス・クレイス”のステージって、いくつだっけ」

 本当は知っている。知っているが、念のための確認だ。

「ギリシャ神話の中心にある12神に合わせ、12のステージが設置されているはずだが」

「だよね。……13番目のステージってわかる?」

「なんだそれは」

「……。なんでもない」

 単なるいたずらだろうか。

 そう思った瞬間、再びランプが光った。



 『 僕が 助けてあげる アヤ 』



 アヤノは今度こそ、両方のメッセージを消去した。さすがに気持ちが悪い。送信者も表示されていないので余計にだ。

「ごめん! 思ったより時間がかかった!」

 突然ショウの声が聞こえてびくりと肩が跳ねた。ごまかすように首を回すと、いつの間にか現れていたショウの冴えない表情にぶつかった。

 先ほどのメッセージは、これまでの経緯とタイミングから考えて、きっと運営からのものだろう。そしてこの様子では、解決につながるような回答は得られなかったのかもしれない。

「なんて?」

「ん……あとで話す。そっちは? 何もなかった?」

「ショウ、君は『13番目のステージ』というのを知っているか」

 答える前にダンテが口をはさんだ。聞こうか聞くまいか迷ったのでちょうどいい。アヤノはダンテを一瞥し、またショウに視線を戻した。

 返事はすぐにはなかった。なぜか、見開いたショウの目には驚きの色が濃い。

「誰に聞いたの。13ステージのことなんて」

「え」

「ステージは12までではないのか?」

「あ、いや……」

 動揺気味に言葉が切れる。それから仕方なさそうに息を吐いて、ショウは続けた。

「噂に聞いたことなら、ある。12ステージまで開錠したプレイヤーにはメッセージが届いて、そこに裏ステージを開く方法が書いてあるらしいって。まだ到達した人はいないみたいだけどね」

「つまり“第13ステージ”ということになる」

「あるんだ、ホントに」

 言ってみてからぞくりとした。

 ついさっき消去した、あのメッセージ――

「高レベル者の間でしか回ってない噂だよ。2人はどうしてその話になったの」

「彼女が言い出した」

「アヤが?」

「……さっき変なメッセージが届いて。そこに書いてあった」

 思い切って口にしてみる。するとショウが怪訝そうにする。

「誰からの?」

「わからない。書いてなかった。もう消しちゃったし」

「送信者不明ってこと? それもおかしいよ……そこに13ステージのことが?」

「うん」

「行き方?」

「じゃなかった。『13ステージからなら戻れる』って。それだけ」

 はっと、ショウが息を呑んだ。とっさに何か言いかけたようだが、すぐに片手で口を隠し、軽くうつむいた。

「ショウ?」

「その手が、あったか……でも……」

「なんの話をしている。厄介事でも起きたか」

 ダンテの口調が硬くなる。そこでショウはふっと顔を上げ、きつめのまなざしを2人に向けた。

「そんなところ。それについてちょっと話したいんだけど、ダンテはあとどれくらいここにいられる?」

 ダンテは数度瞬いてから、やはりただ事ではないと感じたらしく、真剣な表情になった。

「連続プレイ時間のことなら、あと2時間程度だ」

「それともう1人、話を聞かせたい仲間がいるんだ。すぐ呼び出すから待っててもらっていいかな。時間をつぶさせて悪いんだけど」

「……かまわない」

「アヤもごめん。さっき言わないようお願いしたけど、それじゃもう無理みたいだ」

 つまり、アルまで呼び戻した上で“幻想症候群”について話すというのだろうか。そこまでするのが必要なほどこじれた事態になっているのか。

 若干の緊張に、アヤノは唇を引き結んだ。ショウがそこへ歩み寄ってくる。もう1度「ごめん」とくり返して、ぽんと、アヤノの肩をたたいた。



            * * * * *



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