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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第13ステージ:『  』
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オラクル VS. アヤノ -2-


 アル達もさすがに困惑した様子で各々の武器を下ろしかけた。しかしファントムが間髪入れずに檄を飛ばす。

「相手は戦意を失ってる! 今のうちだ!」

「いや、ショウ、あれってほんとに――」

「世界をおかしなことにした犯人だ! 情けなんてかける必要ないからね!」

 アルの問いかけさえ強引にねじ伏せ、ファントムが斬りかかってくる。こうしてよく見ると、やはり剣筋は本物と違っていた。

 ショウよりも少し遅い。ショウよりもモーションが派手で、無駄が多い。

 アヤノは後方へのステップで一閃をかわした。目が合うと苦々しげに舌打ちされたけれど、こちらだって黙ってやられてやるつもりはない。

「逃げるなよ!!」

 2度、3度と失敗を重ねて短気な地がのぞく。そこへはっきりと言い返す。

「攻撃しない、そう言った。逃げないとは言ってない!」

 誰ひとり欠けさせない。それは自分も含めてのことだ。だから逃げる。逃げ続けてみせる。

 そのあとどうするかは――まだ決めていないけれど。


「みんな! 加勢してよ!」


 ファントムだけがしつこく追ってくる。その動きは単純で読みやすい。読めてしまえば避けるのは容易だ。だんだんと落ち着いてきたことを自覚して、アヤノはふと、口を開いた。

「ねえ……あなたは、わたし達をどうしたかったの」

 一瞬だけファントムが目を見開いた。が、答えれば矛盾が生じることはわかっているのだろう、ものも言わずにまた長剣を払う。

「助けたいからって、言ってたけど。本当にそう思ってる?」

 ――うるさい。

 声はなく、口だけがそんな形に動いた。アヤノはそれで、確信した。

「長いこと、ひとりでここにいたんでしょ。誰にも気付いてもらえないで。それって、きっと寂しかったよね……?」

 彼も自分と同じだ。現実を受け止めきれずに“こちら”へ逃げ込んで、結果ひとりぼっちになっていた。なんというか、ちょっとばかりスケールが違うけれど。


「本当は、“助けて”ほしかったのは、あなたの方なんじゃないの、ファントム」


「……うるさい!!」


 油断した。瞬時に距離を詰められて、胸ぐらをつかまれ地面にたたきつけられる。衝撃で息が止まりかけた。

「待てって! なにもそこまで!」

 アルの慌てた声。しかしファントムは興奮した様子で、片手で大きく剣を振りかぶった。


「お前はもういらない。消えてよ」


 ささやきは上擦り狂気じみていて、心底ぞっとした。

 本当に、殺される――

 戦慄と共に思わず目を細めた。

 その時だった。


魔法マギア:アフティダ!』


 閃光が空を覆った。アヤノははっとして逆に目を開く。今の魔法は。詠唱した声は。

「なんだ!?」

「ちょっとあそこ! なんかヒビはいってるんだけど!?」


『メテオリティス!!』


 さながらガラスが割れるように、青空が砕けた。

 ファントムもさすがに驚いたようで力が緩む。その隙に全力で腕を振り払ったアヤノは、地面を転げて安全な距離まで逃れた。

「……ショウ……!?」

 素早く身を起こして気配のした方を見やる。そこには、待ち望んだ姿があった。

 もうひとりの、いや、本物のショウが、確かにたたずんでいる。何があったのか黒い衣装はところどころ裂け、少し苦しげに肩を上下させているけれど、まなざしはしっかりと前へ向けられていた。

「ちょっと! ショウくんが2人!?」

「なんだよこれ、どうなってんだよ!」

「どちらかが偽物か……あるいはどちらも別人か……?」

 ユーリ達の混乱をよそに、ショウは、自分と同じ姿を見据えて口を開く。


「何をしてるんだ、ファントム」


 背筋が凍るかと思った。それほどに怒りのこもる一言だった。

 ぴくりと身を震わせたファントムが、おもむろに立ち上がる。頭上から砕け散った空や風景の欠片がきらきらと降ってくる中、2人は対峙した。

「“ファントム”って? 何を言ってるんだ、ぼくの偽物が」

 おそらくファントムは余裕を見せたかったのだろう。が、その笑みは若干引きつっている。対するショウは、冷徹ともいえるような表情だった。

「偽物とか本物とか、そんなことどうでもいいよ。『何をしてるか』聞いたんだけど」

「み……みんな! こいつも偽物だ! 早く倒さないと」


「君はアヤに、何をしようとしたんだ!!」


 ショウがこんな怒声を放ったことに、アヤノは驚きを隠せない。けれど怒りの対象はとても彼らしくて。こんな時だというのに嬉しくなってしまう。

 自身がぼろぼろになっていようと、まず仲間のことを思って怒ってくれる。それが、アヤノの知る本物のショウだ。

「ファントム。聞いてくれないか。本当言って、僕は“あの時”君を助けられなかったこと、ずっと謝りたかった。君に許してほしかった……君は、信じてくれないかもしれないけど」

「……」

「だから、君がここにいるとわかったときから、望むことがあるならできるだけ応えたいと思ってた。誰かとここにいたいっていうなら、僕は残るつもりでいたよ。君は僕の大事な仲間だったから。――だけど!」

 ショウは長剣の鞘を払う。そうしてその切っ先を、かつて仲間だったというファントムに向けた。


「アヤ達も同じだ! 大切な仲間なんだ! 仲間に手を出すようなら、いくら君でも許さない!!」




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