オラクル VS. アヤノ -1-
言い切った。
アヤノは肩で息をしながら顔を上げる。はたして何を言い返してくるかと思いきやファントムは黙っている。そうしておもむろに、右手を振った。
「!」
強い光が差す。反射的に目を細め、何度かまばたきする間に聞こえてきたのは、よく知る声だった。
「なあ、ふたりともどうしたんだよ、急に黙り込んだりしてよ」
「……アル」
先ほどの場所――たぶん偽物であろうビル街へ戻ってきた。他の3人は一様に困惑の表情だ。が、アヤノたち2人が急に姿を消したというような態度ではない。もしかすると姿だけはずっとここにいたのかもしれない。
などという悠長なことは、実際には考えている余裕などなく。
「みんな! これはアヤじゃない! アヤの偽物だ!」
ショウの姿のままでファントムが声を張り上げた。青い眼が一瞬だけ、お返しだとばかりに暗く光った、ような気がした。
「ち、ちが」
「だから急に、ぼくを偽物なんて言い出したんだな! お前は誰だ! おとなしく正体を現せ!」
アヤノは息を呑む。アル達の猜疑がこちらへ向けられているのを感じた。
「アヤ、じゃ……ねーのか?」
「そうなのか」
「ふうん? 偽物ねぇ?」
「――わかったぞ! さてはお前が“テオス・クレイス”の異変の首謀者だな!?」
さらに畳みかけてくるファントムの口の速さに反論の余地がない。そもそもしゃべるのは苦手なのだ。思考ばかりが空回りして、ただ慌ててしまう。
「なんだと?」
「あれを倒せば、世界は元に戻るはずだよ! さあ、みんな!」
ファントムにつられるように全員が武器を手にした。半信半疑の表情ながら、皆の心は“あちら”に傾きつつあるようだ。
「倒そう! 元凶を!」
ファントムが斬りつけてきた。アヤノはとっさに横へ跳び、やっと叫ぶ。
「違う! わたし、偽物なんかじゃ」
「みんな耳を貸さないで! 偽物に騙されたらダメだ!」
「偽物は、あなたの方――」
『魔法:フロガ!』
炎の攻撃魔法が肩先をかすめた。このまま押し切って口を封じるつもりなのだろう。そんなことをさせるわけにはいかない。
が――
『魔法:プリミラ』
風魔法が炎を煽った。ダンテに視線を投げると、すでに眼差しは敵意へと変わっていた。
わかってしまった。アヤノの言葉は、もう簡単には届きそうにない。
「てめっ、ほんとに偽物なのか!? 本物のアヤをどこにやった!?」
アルが至近に飛び込んできた。さすが速い。身をひねって飛び退き距離をとろうとするが、ぴたりと追いすがってきて離れない。
「答えろよ! 撃つぞ!!」
「まぁ何にせよ、とにかく捕まえてみましょうか?」
『魔法:アンベロス』
足下のアスファルトが割れる。アヤノは必死で曲刀をふるい蔓を斬り払った。その分だけスピードが鈍る。はっと目を上げれば、目の前には銃口があった。
「っ!」
間一髪、直撃は避けた。けれど肩先に鋭い痛みが走った。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
影が視界をかすめる。反射的に進行方向を変え横に逃げた。その上方から、巨大な蛇の牙が降ってくる。
「あらぁやるじゃない」
「みんながんばって! ここで逃がしたら、何も解決しないよ!」
「わかってるっての!」
アルが――皆が。ショウに対するのと同じように、ファントムに応じている。
どうしたらいいのだろう。きちんと考えたいところだが、4人がかりの猛攻を受けてそんな余裕は微塵もない。たのもしい味方が敵に回るとこんなにも厄介で、そして同時に、やるせない。
「みんな……!」
どうしたらいいか、まるでわからない。
わからない。
――それなら。
覚悟を決めた。アヤノは不意に立ち止まる。これは予期せぬ行動だったようで、アルがアヤノの横を行きすぎた。
その間に皆の方へ向き直る。そして。
「わたしは、攻撃しない。傷つけない。ちゃんと、みんなで帰るんだから」
腰帯に差していた曲刀も、隠し持った戦輪や長剣も。すべての武器をその場で地面に落とした。自分なりの、せいいっぱいの決意表明だった。




