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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第13ステージ:『  』
195/200

リアル -3-


 ひとつまばたきをする間に、がらりと風景が変わった。アヤノは再びあの暗闇の中に戻ってきていた。驚きはしない。そういうことができる相手なのだろうと早々に割り切った。

 そして『そういうこと』ができそうな人物を、アヤノはひとり知っている。

「あいつ、って……ショウのこと?」

『他に誰がいるんだよ。ていうか君さ、おとなしそうな顔の割りに実はすっごく図々しいよね。つきあいなんてほんのちょっとの間しかしてないくせに、あいつのことはよく知ってますみたいなさあ』

「そんなの、思ったことないけど」

『態度に出てんだよ!』

 あいかわらず見た目はショウのままだけれど、口調がまったく違っている。子供のような、短気さを感じさせる雰囲気。これはやはり。


「あなたに、そう見えてるだけ、なんじゃないの。……“ファントム”」


 彼は一瞬だけ黙った。しかしすぐに、いやらしく口元が歪んだ。

 ショウの顔でそれをされると、わりと、かなり不愉快だった。


『ばれちゃったかあ。なんで? どの辺でぼくってわかったの?』


 無理に隠すつもりはないようだった。だからこそ次はどんな行動に出るかわからない。アヤノはいつでも動けるよう、さりげなく膝に力を込めた。

「ここ。前にあなたに呼ばれたときの空間と似てる。あと、そのしゃべり方」

『それだけで? へえ名探偵じゃん!』

「こっちからも質問したいんだけど」

『いいよ? 何?』

「あなたは……ショウと、長いつきあいみたいだけど。いつから?」

『んー、この世界テオス・クレイスができてすぐくらいかな?』

「もしかして、同じパーティに、いた?」

『いたよ。一緒にプレイしてた』

 あまりにもあっさりと。答えは返ってきた。

 アヤノは急激に速くなっていく鼓動を抑えながら、ショウの姿の“ファントム”を見据えた。

「ショウは、ファントムはもういないって。“テオス・クレイス”から離れたって、そう言ってた」

『半分本当だけど半分は嘘だね。現にぼくはここにいる。まあショウがそう思ってたのは無理ない話だけど』

「……?」

『わからない? だろうね。ぼくは、“あっち”にはいないんだ――もう、死んでるからさ』

「!?」

『ははっ、驚いてる驚いてる』

 こちらの反応に気をよくしたようで、ファントムの目がぱっと輝いた。アヤノが言葉をなくしている間にテンション高くまくしたてた。


『そうさ! ぼくはあいつのせいで死んだんだ! あいつがぼくを裏切ったから! だけど今では感謝してるよ! この世界ではぼくはなんでもできる! この世界でなら! 僕は、神だ!!』



            + + + + +



 ――もう、やめてくれ……


 朦朧とする意識の中でも、ファントムの声だけははっきりと聞こえてきた。

 アヤノと話しているのがわかる。自分のことを話しているのが、わかる。

 脳裏をよぎるのはあどけない子供の顔だ。生前の彼はショウを慕ってくれて、一緒に“テオス・クレイス”を隅々まで探検して回った。

 懐かしい話だ。

 けれど。


『ショウ兄ちゃんだけは、味方だと思ってたのに!!』


 記憶の中の顔さえぐにゃりと歪む。そうして最期に放ったひとことが、いつまでもショウを責めるのだ。


 違うんだ。そんなつもりじゃなかった。

 君がそこまで思い詰めていたなんて、思わなかっただけで――


 そんな贖罪の言葉どれだけを並べようと、結局のところは言い訳だ。決して彼に届くことない。第一自分は、彼が自ら死を選んだ時、引き留めることができなかった。というより、引き留めることをためらってしまった。

 責められても仕方がない。この期に及んで許されようとも思わない。

 ただ、せめて。


「アヤ達には……手を、出さないでくれ……!」


 その一念だけで意識は保っていた。

 しかし時を追うごとに抗う力は奪われていく。ファントムが魔力で喚びだした蔓は、もがけばもがくほど全身をきつく締め上げた。どうしても抜け出すことができない。


 どうにもならないのか――あの時と同じように――


 ファントムを目の前で失ったときのように。気力も体力も削られて、だんだん力が入らなくなって。

 ほんの一瞬、気が遠くなった。

 ちょうどその時だった。唐突に、ファントムではなく、アヤノの声が耳に飛び込んできた。



            + + + + +



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