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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第13ステージ:『  』
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リアル -2-


 伸ばした指先がショウの手に触れる。

 しかしアヤノは、反射的に手を引いた。そうして怪訝そうにこちらを見ているショウをじっと見返す。

「アヤ? どうかした?」

「……」

「早くおいでよ。迷うことなんて何もないでしょ?」

 ほんの少し、ショウは目を細めた。

「だって僕だけが君達を理解してあげられるんだ。事情はそれぞれ違っても、みんな、誰かに認められて、受け入れてほしかったんだよね?」

 背後で誰かが気まずそうな息を落とした。アヤノもまた、あさっての方へ視線を逸らす。

 たぶん、ショウは正しい。承認欲求というのだろうか――無自覚に持っていたものを突きつけられて、内心では身もだえするほど恥ずかしいけれど、同時に、妙な安堵感を覚えている。こんな思いも考えも、誰にも話せなかったから。誰もわかってくれないだろうと、漠然と思いこんでいたから。


「アヤ。君の強さを僕が認めてあげる。

 アル。君の理解者に僕がなってあげる。

 ダンテ。君の正しさを僕が証明してあげる。

 ユーリ。君の自由を僕が保証してあげる。

 約束するよ」


 共に戦ってきたショウならわかってくれる。常に導き手だったショウなら自分達を助けてくれる。

 ショウと一緒に行けば、“あちら側の世界”で、ヒーローになれる――


「みんな。僕と来るよね? そうすれば、幸せになれるよ?」


 それまで停滞していた空気が、動いた。まずはアルが。アヤノの横からショウの元へ歩み寄ろうとする。ショウは笑顔で両手を広げ、それを迎える。

 ――が。


「ねえ」


 アルの肩をつかんで止める。なんだよ、としかめ面を向けられるけれど、アヤノは逆に1歩下がった。

「……誰?」

「え?」

 言われるままに信じていれば――信じたふりをしてしまえば、どんなにか楽だっただろう。

 それでもアヤノは、その言葉を口にする方を選んだ。


「あなた……誰?」


 ショウの姿をした“誰か”に問いかける。と、彼は明らかに頬を引きつらせた。

「誰って、どういうこと? まさか僕の顔を忘れたなんて言わないよね?」

「顔じゃない」

「ていうか、僕が“ショウ”以外の誰だっていうの?」

「誰かはわからない。だけど、ショウじゃない。絶対」

「……どうしてそう言い切れるのかな?」

 彼の表情は徐々に暗くなっていく。落胆ではない。たぶんこれは、苛立ちだ。

「“約束”」

「約束? それなら覚えてるよ? 『全員で第13ステージへ』、でしょ?」

「違うよ」

 本来の、ショウと最初にかわした約束を、アヤノはすでに思い出していた。

 というより思い出さざるをえなかった。本当の自分の姿をいやというほど見せつけられたおかげだ。


「約束は……全員、誰1人欠けることなく、“帰る”こと。わたし達の、“リアル”の世界に」


 本音では、不甲斐ない自分など思い出したくなかった。帰りたくなどなかった。

 それでも忘れたふりはしたくない。それではショウを、ショウとの約束を、裏切ることになる。

 アヤちゃん、とユーリがうろたえた声を上げた。それでもアヤノは先を続ける。ここで止めては、“ショウ”の誘惑に負けてしまいそうだ。


「だからショウは、“そっち”に戻ろうなんて言わない。あなたは偽物。……本物のショウは? どこ?」


 沈黙。

 もう“ショウ”の顔に表情らしい表情はない。ただ冷たい眼差しがこちらへむけられている。それでも、次にその口から出た声は異様に優しい響きを帯びていた。

「僕が本物だよ。いろいろ考えて、君達のことを思って――結論を変えただけ。リアルなんかに帰るより、残る方が絶対にいい、って」

「嘘」

「嘘じゃないさ」

「な、なあアヤ。お前さっきから何言ってんだ? “リアル”とか“帰る”とか……わかんねーよ」

 アルが引きつった顔で後じさる。ユーリも、ダンテさえ、反応は似たようなものだ。

「ショウの発言は、筋が通っているように思えるが……」

「ねぇアヤちゃん? なにか悪いものでも食べちゃったりした? 変よぉさっきから」

「変じゃない」

「や、変だろ、どう考えてもよ」

「変なのは、こっち」

 ショウを指さす。迷いはなかった。


「だってショウは、理解者になって“あげる”なんて、そんな風に言う人だった?

 急に前とは正反対のことを言い出すような、無責任な人だった?

 わたし達の意見を聞いてくれる前から、勝手に何か決めちゃうような、そんな人だった?」


 アル達に戸惑いが生じる。しかしまだ手応えは弱い。おそらくけれど、偽のショウの方を信じたがっているのだと思う。アヤノと同じように。

 このままいけば、ただただ願望の向く方へ流されていくのだろう。その方が圧倒的に楽だから。

「……ねえ、アヤ」

 またもしばしの沈黙が続いた後で。

 不意に、“ショウ”の口の端が、歪んだ。


『君はあいつの、何を知っているつもりなんだい?』



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