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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第13ステージ:『  』
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リアル -1-


 “ショウ”は皆を順に見渡して、穏やかに語りかける。

『みんなきっと、それぞれ悩んできたんだね。だけど、だから強くなれたんだ』

 対するアヤノははにかむようにうつむき、小さくつぶやいた。

『そんなことない……まだぜんぜん、だよ』

『大丈夫。ちゃんと強いよアヤは。こんな普通の街にいちゃ物足りないくらいでしょ?』

『! そうかな。ちゃんと、強いくなれてる?』

『もちろん。だからさ、早く“あっち”に戻ろう。あっちで強い敵と戦えば、もっともっと強くなればいい』

『あっち?』

『そう、あっち。僕達のこの力が一番発揮できる世界に――』


「みんな!! そいつの言うことを聞いちゃ駄目だ!!」


 皆と、自分の姿をした何かに、ショウは力の限り叫んだ。しかし暗闇の中にぽかりと浮かぶ巨大スクリーンの向こうまではこちらの声は届きそうもなく、前へ出ようとしても、手足に絡みついた蔓が邪魔をする。さらに。


魔法マギア:アンベロス』


 どこからが空との境目かわからないような闇色の地面を突き破り、新たな蔓が伸びてきた。手足どころか首にまで巻きつかれ、今度こそ身動きがとれなくなった。

 その様子を見て、彼はまた笑う。ショウは歯噛みしつつ彼を睨みつけた。暗闇の中でも不自然にくっきりと浮かび上がる、派手な宝飾を全身に身に着けた“戦士”の姿。ショウが彼を見間違えるはずはなかった。


「ファントム……!」


「ダメだって、邪魔しないでよ。今すごくいいとこなんだ。やっとみんなを“こっち”に迎える準備ができたところでさ。ほら見てよ、みんなあんなに嬉しそうだ。当然だよね。なにひとつ思い通りにならないあんなくだらない世界にいるより」

 自分こそ嬉しくてたまらないというように目を細めながら、彼は、ゆっくりと口角を上げた。

「“こっち”でぼくと遊んでる方が、楽しいに決まってる」

 思うさままくしたてて笑う彼に対して、言いたいことはいくらでもあった。まず何から口にすべきかとっさに選べなかったほどだ。


 アヤノが“テオス・クレイス”をログアウトできなくなってからの一連の不可解は、すべて君の仕業なのか。

 最初から彼らを取り込むことが、それだけが目的だったのか。

 いやそれよりも、なぜ君はここに。

 君は。間違いなくあの時――


「うんうんわかってる。君が考えてることは全部わかってるよ」

 ファントムはひとさし指を左右に振って、無邪気にウインクして見せた。

「“長いつきあい”だし、ぼくは親切だからね。ちゃんと全部教えてあげるって」

「ひとを……顔を合わせるなり拘束しておいて、信用できるとでも?」

「そこは信じてもらわないと。ぼくと君の仲じゃない。まあそれも、とりあえずアヤノちゃん達が“こっち”に来た後でだけどね?」

「っ」

「おっと、それ以上騒がないでよ。どうせアヤノちゃん達には聞こえやしないけど……やかましいよ」

 蔓がのどをきつく締めつけた。声どころか呼吸さえままならない。宙に浮かぶ巨大スクリーンの中の、アヤノ達の動向を見守ることしかできなかった。

 このままではファントムの思惑通り、皆が、こちらへ取り込まれる。

「……なんだよ。なんでそんな顔するんだよショウ」

 ファントムの声音が唐突に不機嫌な響きを帯びた。

 意味もなく右へ左へと体を揺らす仕草は、記憶にある彼そのままだった。


「ぼくはみんなを助けたいだけだ。みんなだって“こっち”に来ることを望んでるじゃないか。それをかなえてあげることの、何がいけないっていうんだよ!」


 まったくの否とは言えなかった。アヤノ達が現実世界に対して、それぞれに何らかの不満を抱いていたことは確かだ。しかしだからといって、彼の好きにさせていいはずはない。

 なんとかして、止めなければ――

「やっぱりわかってくれないんだ? ああもういいや。とにかく君はそこで指くわえて見てなよ。みんな絶対に、ぼくの方を選ぶから。絶対だ」


『みんな。僕とおいでよ。僕が君達を、“助けてあげる”』


 偽物のショウがアヤノに手を差し伸べた。アヤノは不思議そうにしながらも、自身の手をゆっくりと上げる。アヤ、と必死に呼びかけるもののショウの声は潰されたままだ。

 と――耳元でファントムが囁いた。

「ほーらやっぱり。みんなぼくと遊びたいってさ」

「……!」

「だけどショウ、お前は仲間に入れてやんない。“あのとき”はぼくを見殺しにしたんだから……仕方ないだろ?」

 哄笑がはじけた。

 と同時に、スクリーンの中では“ショウ”とアヤノの指先が、触れた。



            * * * * *



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