フェイク -4-
――おい、あいつが来たぞ!
――やっべ逃げろ!
――殴られるぞ
――カツアゲされるぞ
――あいつには、関わらない方がいいってよ――
「くそ……好き勝手言いやがって……」
苦々しく舌打ちしたのはもう何度目か。
ずいぶん前に、弟をいじめていたクラスメイトらを軽くシメたことなら、確かにあるわけだが。そのことがいつまでも尾を引いて、いまだに無法者扱いなのは腹が立つ。誰も彼も最初からそうと決めつけてかかってくるのだ。
『兄ちゃん大丈夫だよ。俺はちゃんとわかってるから。兄ちゃんはみんなが思うような悪いやつじゃないってさ』
弟は常々そう言ってくれるし、バイト先の年長者相手なら意外とうまくやれる。が、同世代との間の壁が厚すぎて、どうしても崩せない。
『変に意地張らないでさ、ためしに言ってみなよ、みんなと仲良くしたいって』
無理だ。誰もが話を聞いてもくれずに自分を拒絶する。
だからときどき、つい思ってしまうことがある。
もしも自分のこのナリが変わったら、現状は変わるのだろうか、と。
+ + + + +
いましがたすれ違った相手は、やけに不機嫌そうに顔をしかめていた。
どこかで見た顔だった気もするけれど――とにかく触らぬ神にたたりなしだ。せいいっぱい目立たないよう注意しながら気配が遠ざかるのを待つ。
ただ、自分にとっての一番の脅威は、ああいう赤の他人なんかではない。
「お。こんなとこにいたのかよぉ女男」
みつかった。
どこからかわらわらと湧いてきた少年らに囲まれて、思わず首をすくめる。いっしょに歩く間に左右から何度も肘で小突かれた。
「いっしょに買い物に行く約束だったろぉ」
「そう……だったっけ」
「そうだって。お前も好きなもの買っていいからさ、オレらの分もよろしくたのむよ」
――断れるだけの勇気があればよかったのに。
切にそうは思うものの、現実の自分にそんな甲斐性はなく。
連れ回されては少しばかり巻き上げられるのが常なのだった。
こんな自分は嫌いだ。
こんな、他人の言いなりな自分は。
消えてなくなってしまえばいいのに。
+ + + + +
「ずいぶんと、不穏だな」
遠目に学生の集団を見かけた。気弱そうなひとりを複数人が囲むようにして歩いていった。本当ならああしたものは、中心の彼が何かしらの強要を受けていないかと確認した上で必要ならば指導したいところだ。
しかしそうしたことを口にすると、他者から必ず止められる。逆に自身が通報されるぞとたしなめられたこともある。
自分はただ、正しい行いを求めているだけだというのに。
『なあ悪いけど、俺ら、そういうのついていけねえよ……』
なぜなのだろう。なぜ理解されないのだろう。
自分は間違っていないはずだ。
ならば。
正義が為される世界は、存在しないということなのか――
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