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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
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ジャミング -4-


 アヤノはちらりとショウを窺う。どんな顔をしているかと思えば、それまでと変わりなくにこやかだった。

「会ったのは初めてだよね? 僕ってそんなに有名人かな」

「否定しないのか」

「そういう風に呼ばれてるのは知ってるよ。否定はしない。『誰か』にとってそうだったってことだろうから」

「……そうか」

 黒い眼が、今度はアヤノに向けられた。ダンテの表情はぴくりとも動かない。納得したのかしないのか、むしろ怒っているのか。読みとることはできなかった。

「君。彼との関係は」

 しかも開口一番、大変答えづらい聞き方をされた。

「どう、って。どういう意味で」

「言いくるめられ連れ回されているのではと心配している。違うのか」

 ショウもこちらを見る。実際にそのつもりがあるかどうかはさておき、探られているようで居心地が悪い。が――

「別に。わたしはそんなこと思ってない」

 アヤノの場合は、自分からショウを誘っている。いろいろと思うところはあっても、それについて言い訳をするつもりはなかった。

 返答が意外だったのか、ダンテはわずかに言葉を詰まらせた。

「それならいいが……」

「まだ気になるの? それならいっそのこと、いっしょに来て僕を見張ってみたら?」

「え」

 と、声を上げてしまったのはアヤノだった。ダンテが不審げに眉根を寄せる。ショウだけは笑顔のままだ。

「君さえ良ければだけどね。ついでにフレンド登録もしてもらってもいいかな。術士とはあまり組んだ経験がないから興味があるんだ。僕の方では」

 ダンテはすぐには答えず、腕組みをしてじっとショウに視線を注いだ。怪しんでいるということだろうか。

「登録は遠慮する。だがしばらく同行させてもらおう」

「ありがとう。嬉しいよ」

「しかしなぜだ」

「下心があるからだね」

「なに?」

「彼女」

 そこでショウがこちらを指さした。

「まだ始めたばかりでわからないことが多いみたいなんだけど、予想外に早く第2ステージが開けてしまって。サポートしてくれる人間がもう1人くらいほしいと思ってたんだ」

「たしかにレベルは低いようだ」

「だろ?」

 自分をだしに勝手に話が進むので、アヤノはむっとして眉をひそめる。と、2人が同時にこちらを向いた。

「そういう事情ならば納得できる。協力するのもやぶさかではない。“ショウ”、君の言うことのどこまでが事実か、確かめよう」

「ってことでアヤ。聞いての通りだから」

「ちょっと!」

 勝手に決めるな――そう叫びかけたところで、ショウが声を出さずに口を動かしていることに気づく。何事かと目を細めると、もう1度くり返した。


 ――幻想症候群 まだ 言わないで――


「どうした」

「……わたしまだ、いいなんて言ってない」

「駄目かな? 指南役は多い方が上達するよ。僕も苦手分野はあるんだし」

 ショウの要求に「なぜ」と視線を送れば「いいから」と返された。内心で首をかしげたものの、よく見れば、ショウのまなざしだけは真剣だ。

「そんなこと言ったって。“戦士”と“術士”だけど」

「術士だからこそわかることってあるんじゃないかな。むしろ僕はそれが知りたいんだけど。――ああ、ごめん。アヤは君とパーティを組むことじゃなくて、こっちで話を進めてたのが気に入らないだけだから」

「! うるさいな!」

「ほらね」

 軽く笑い声を上げてから、ショウはダンテに向き直った。

「仲良くするつもりはないのかもしれないけど、改めてよろしく。僕はショウ。魔法マギアをかじってる。火属性、空属性」

「“空”。戦士では珍しいな」

 一瞬目を見張った後、ダンテはようやく、友好的と取れそうな表情になった。

「ダンテだ。魔法マギアは地属性と水属性を中心に取得している」

「回復系か!」

「単体全回復までは獲った。――君は“アヤノ”でいいのか」

「……ん」

 アヤノがうなずいた時だった。誰かにメッセージの届く電子音がした。ショウが片手を上げ、うしろへ下がる。

「ごめん。ちょっとだけ席を外す。待ってて」

 それだけ言い残してログアウトしていった。ずいぶんとあわてているように見えた。



            * * * * *



「もしもしおじさん? 進展は?」

 待ちに待った返信だ。彼は端末を耳に当てるが早いか先方へ呼びかける。しかし通話機からまず聞こえてきたのは沈黙だった。

「どうかしたの」

『なあ……さっき言ってたプレイヤーの件な。本当のことなんだよな?』

 やっと聞こえた声には困惑が色濃い。彼は眉根を寄せた。

「こんなことで嘘も冗談も言わないよ」

『いやな。お前のリスト登録者は調べてみたよ。調べてはみたんだが……履歴がない』

「は?」

『ログイン履歴がないんだよ、その“アヤノ”って子。3日前のログアウトが最後だ。おまけに何通メッセージを送っても反応がない。本当に“テオス・クレイス”内にいるのか?』

 今度の沈黙は長く続いた。

 やがて、彼はかすれた声でつぶやいた。


「まさか……じゃあ、さっきまで俺といっしょにいた彼女は……?」



2章1節 了

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