フェイク -1-
――とうとう、来たね
ずっと待ってたんだ……待ちくたびれるくらいにさ
だけど、だから歓迎してあげる
ようこそ、ぼくの世界へ――
* * * * *
無事グリフィンを倒したあと。ゼウスの神殿に戻るまで、皆が皆ほとんど口をきかなかった。アヤノもまた、あまりの実感のなさに沈黙を守る。これで目的地は目と鼻の先だというのに。
どうしても考えてしまうからかもしれない。
これで――『終わってしまう』のか、と。
「なあ。オレら、けっこうがんばったよな?」
ゼウスの前まで来て、ぽつりとアルがつぶやいた。すぐには誰も答えなかったが、ややあって、ショウが短く息を吐いた。感慨深そうなため息だった。
「がんばってたよ。みんな、本当に」
「! だよな! そうだよな!?」
「いろいろあったけど、約束通り、全員誰ひとり欠けずにここまで来られたわけだし」
「……そうだな」
ダンテまでが少しばかりぼんやりとした様子で零す。
それを見て、ショウは笑った。
「みんなと一緒に戦って、ここまで来られたこと、心から誇りに思うよ」
ぐっと胸が詰まった。とそこへ、空気を読まない豪快な笑い声が響き渡る。
視線を戻した先では守護神ゼウスが満足げに目を細めていた。
『戻ったか! なるほど人間もなかなかやるではないか!
さて、約束であったな。
報賞を授ける故受け取るが良いぞ!』
最後の“紋章”。やっとだ。12の紋章が揃い、条件が整った。
とうとう行ける。
幻の“第13ステージ”へ。
『よくぞここまでたどり着いた。
我らは汝らの功績を認め、新たなる“鍵”を授けよう』
ゼウスではない、しかし聞き覚えのある声がして。
突然頭上から光が降り注いだ。その中から次々と現れたのは、ここまでに出会ってきた11人の神々だ。その輪の中にゼウスも入っていく。これまでとは打って変わって荘厳な雰囲気をまとい、右手をこちらへ差しだした。
そこから、“鍵”が出現した。
アヤノは羽根のようにふわりふわりと降りてくるそれを、しっかりと受け止めた。ガラスのような透明の石が収まる鍵だった。
この色が次のステージと守護神のシンボルカラーになっているはずだが。無色透明となると、一体どんなステージが待ち受けているのか、なかなか想像がつかなかった。
『真に終なる扉が開く』
『扉の先は世界を超えたもうひとつの世界ぞ』
『行くが良い、汝らに勇あるならば』
『行くが良い。世界の真実をとくと見よ』
「え? ちょっと?」
なぜだかユーリが困惑気味の声を上げたけれど、それより早く、周囲の景色がブラックアウトした。
数度まばたきしてみてから、アヤノはぐるりと周りを見渡す。が、何もない。すべてがただただ闇だ。他の皆も不思議そうにしている。
「ショウ。これが“幻のステージ”なのか」
ダンテに見下ろされたショウは、きっぱりと首を横に振った。
「そんなはずはないよ。だってここは本当なら、時空の神“クロノス”が守護するステージで――これまでの12ステージが、ランダムに出現してくるはずなんだ」
「……え?」
アヤノは目を見開いた。すぐに、頭上でダンテの固い声がした。
「なぜ知っている?」
「え?」
「第13ステージとは、まだ到達した者のいないが故に“幻”であると言っていたはずだ。だというのに、なぜお前はその内情を知っているというのだ」
「……あれ?」
言われて初めて気がついた、ショウはそんな表情をした。と思うや、その顔色がみるみる白くなっていく。
「そうだよね……なんでだっけ……?」
「ていうかねぇ、私もちょっと疑問なところがあるんだけどぉ」
ユーリがひらひらと手を振った。おどけた仕草とは裏腹に、こちらも怪訝そうな顔をしている。
「ここの解放条件って、“紋章”12個の収集なんでしょぉ? でも私、第2ステージのやつは持ってないのよぉ」
「えっ」
「あとで取りにいけばいいかと思ったから、前もって言ってなかったんだけどねぇ」
そういえばユーリは、決戦前に何か言いかけていた。もしかしなくともこのことだったのだろう。
「はぁ? 嘘だろ? そんじゃあなんでここに来れてんだよ?」
「パーティの大半が条件を満たしていたから、っていうんでもないでしょうしねぇ」
「これは一体どういうことだ?」
顔を見合わせながら言い合ったところで答えが出るわけでもない。
それでもショウは、出ない答えをじっと思案していた。いっそ、まるで何かを“思い出そうとしている”かのようだった。
そこから短からぬ沈黙があって。
「……まさか……ここは……」
不意に、ショウはそう口にした。