オラクル Ver. ゼウス -6-
「ユリウス。サソリはどうだ」
「まだ、あと半分かしらねぇ?」
「っしゃ! 鷲1匹落としたぜ!!」
「鷲は……1“羽”……?」
アヤノの冷静な指摘にユーリが軽く噴き出した。
皆にまだ余裕があるということだ。戦況は悪くない。ひとまず今のところは。
『魔法:スピサ!』
ショウはグリフィンの眼前を狙い火球を放つ。ダメージは通らなかったものの、視線がこちらへ向いたのがわかった。
「こっちだ!」
ユーリ達からはできるだけ距離をとって。アヤノとアルなら、他の相手をしながら攻撃を避けるくらいはできるはずだ。
「範囲攻撃、来るよ!」
グリフィンが高度を上げ、大きく羽ばたいた。そこから大量の羽根が矢のように降り注ぐ。ショウは軌道を見定めて後ろへ跳びながら、他のメンバーを目で追った。
「――サソリ8体、オーケーよ!」
声を上げたユーリの方までは、グリフィンの攻撃はかろうじて届いていない。アヤノ達は期待通り、器用によけながら場所を移していく。各生命力ゲージにも大きな減りはない。
羽根が降り止むと同時にショウはナイフを投じた。狙いはグリフィンの顔と、その後方から猛スピードで向かってくる大鷲の喉元だ。
『魔法:プリミラ』
フィールドの中央に水柱が上がった。甲高い悲鳴はセイレーンのものだろう。確認のため一瞬だけ視線を投げると、ダンテが硬い表情でユーリに問いかけるところだった。
「本当にサソリは先ほどのもので最後か?」
「たぶんねぇ」
「たぶんでは困る。セイレーンの数を割り出すには他の敵の数を差し引きする必要がある。……たのむ」
「わかったわよ、もう1回グライアイで見てくればいいんでしょぉ?」
「ああ」
『使役獣召喚!』
折り合いの悪かったあの2人も、戦闘となれば意外とうまくやってくれるようになった。そのことには安心しつつ、また無茶なことを始めないようにと意識を向けたままにしておく。
跳ぶ。大鷲の背中を踏み台にグリフィンの鼻先をかすめる。
嘴で上腕が浅く切れたけれど、大したダメージは受けなかった。問題はない――
判断して剣のつかを握り直した時。
「ユリウス!」
ダンテの声に思わず見返った。
最初に目に入ったのは動こうとしないグライアイだった。そしてその傍らで、ユーリが地面に両手をつき、背を丸めてていた。
「ユーリ!?」
「セイレーンだ! 1体残っていた……!」
顔を歪ませながら、ダンテが宝剣を払った。ショウも唇を噛む。群れで動くセイレーンは単体だと体が小さく見落としやすい。そうして一定距離の接近を許してしまえば、麻痺を伴う“歌”の餌食だ。
一瞬の焦燥。しかしすぐに、ショウは2人から視線をはずした。アヤノが力強く宣言したからだ。
「代わる! ダンテ離れて! ショウの方に!」
銃声が重なった。アルは変わらず、脇目もふらずに鷲の相手を続けている。
ならばとショウは叫んだ。
「僕は大丈夫だから! 2人でユーリをフォローして!」
1人でもグリフィンをユーリ達から遠ざけるくらいのことはできる。大鷲はあと2体いるが、そこはアルがサポートしてくれるだろうし、最悪でもまともに攻撃を受けさえしなければ。
ユーリが復帰して動けるようになれば。彼は最終兵器とでも言うべき、完全回復魔法を持っている。
「ショウ! 鷲はあと1ぴ……1羽だぜ!」
「了解!」
『魔法:スィエラ!』
背後に旋風の巻き起こる音を聞く。1拍の間。そしてダンテが声を上げた。
「これで心配無用だ! 敵残数、2!」
「! アル!」
グリフィンが嘴を開いた。その直線上には大鷲と交戦中のアルがいる。それを見て取り、ショウはとっさに叫んだ。
『魔法!:エクリクシー!』
「うおっ!?」
アルの背後ぎりぎりのところで爆発を起こす。その衝撃でアルが前のめりにふっとんだ。多少のダメージは与えてしまっただろう。が、その直後にアルの頭上を衝撃波が行きすぎた。あれが直撃していたら、怪我どころの話ではない。
「ごめん!」
「や、悪ぃ! 助かった……!」
若干引きつった顔のアルに手を上げて応え、ショウは再び剣を上げる。
『魔法:フロガ!』
炎が残っていた大鷲を焼いた。甲高い啼き声を残し、空中の影が崩れていく。
残数――1。
ショウは一瞬で画面を確認し、グリフィンに向き直った。
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