オラクル Ver. ゼウス -2-
あ、と声が漏れた。そんな考え方があったのかと感心していたところで、ようやくショウの腕の中から解放される。
「ここを抜けたら、また話そう」
「わかった」
「まずは最後の“オラクル”、きっちりこなさないとね」
言い残してまた登っていくショウと入れ替わりに、今度はダンテが降りてきた。
「アヤノ。本当に大事ないのだな?」
「ん」
「では、先に進むぞ」
大きくうなずきながら、アヤノは考える。
たとえばダンテとは、以前どんな話をしていただろう。なんだか他愛ない話もしたことがあった気がするのだけど、よく思い出せない。
たとえばアルは? 確か弟がいる、と言っていなかったろうか。
ユーリは、女性らしい振る舞いをしていても本当は男性で、まだその理由は聞けていなくて、
「次が来てるよ! ダンテ、範囲攻撃!」
ショウからは? 何を聞いた? 何を話した?
1番長く一緒にいて、1番話して、きっと大事なことを聞いているはずで――
「アヤ、そっちたのむ!!」
アルの叫び声がやや間延びして聞こえ、そこから一気に感覚が戻った。
反射的に足下まで来ていたサソリを斬り捨て、視認する間もなく気配のする頭上へ戦輪を放る。短く鷲の啼き声がしたから当たったことは当たっただろう。
周囲を確認。ダンテがセイレーンの群れの相手している。ショウが補助しているようなのでそちらは大丈夫。それよりももう1体いるサソリが問題だ。さっさと先に片づけて。次に、“上”。
「わたしが行く」
「おう、行って来い!」
今回はアルが譲ってくれた。アヤノは軽めにジャンプして、突っ込んできた鷲の背を踏んだ。
渾身の力で後頭を斬る。連続して3回。鷲が驚いて暴れ出したので即座に離脱、置きみやげにもう1度だけ羽に斬りつけておいた。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
召喚された大蛇が鷲ののどぶえに食らいつき、とどめをさした。
改めて見上げれば他の敵の姿も消えていて、アルが最後のセイレーンを撃ち落とすところだった。
墜ちていく小さな影が視界をよぎり、少し、胸が痛んだ。
「おっし終わったぜー」
「けっこう登ってきたし、もうすぐ神殿が見えてくるはずなんだけど」
「それって……もしかしてこれのこと?」
ユーリがふと、指を上へ向けた。
一斉に視線が集まった。その先には確かに見慣れたシルエットがそびえ立っていた。周囲が半ば絶壁なものだから、もうほとんど目の前まで来ていたのに、言われるまでわからなかった。
「急いで!」
新手の敵が出現する前にと、神殿内に転がり込む。
奥の間へ進む。これから一等位の高い神と会うことを考えると、さすがに少しばかり緊張を覚えた。
そして。
『人の身で、よくここまで参ったものだ。
何が望みがあるのであれば申すが良いぞ』
それが主神ゼウスであることは、わざわざショウに確認するまでもなかった。
鮮やかな金色の瞳に豊かな銀の髭をたくわえた、筋骨たくましい男神。手に持つ長大な杖には確たる形がなく、不規則にあちこちで火花が散る。
「あの杖は雷でできてる。ゼウスは雷を武器として使うと言われてるからだろうね」
「げ。あんな普通に持ってっけど痺れねーのか」
「まぁ“神様”なんだから、平気なんじゃないのぉ」
「しかも最強のね。彼が他の“12神”を救ったって伝えられてるくらいだし」
「そうなのか?」
「――ゼウス。俺達は“オラクル”に挑む」
ショウ達が話しているのを後目にダンテが宣言した。するとゼウスは、もの珍しげに眼を細めた。
『自ら苦難を望むとは酔狂なことだが、よかろう。
近頃儂の領分が荒らされておる。
おかげでおちおち逢瀬も……ああいや、ゴホン』
「おうせ? ってなんだっけか?」
「男と女がこっそり会ってイイコトしちゃうこと、かしらねぇ」
「げ、こいつ遊び人かよ!?」
『ともかくそれを鎮めて参れ!
さすれば報賞を約束しようぞ! この大神の名にかけて!』